縦に長く、上顎は極端に短く下顎が長くしゃくれている。額には大きな眼窩らしき大穴がぽっかりと開いており、一つ目の怪物か何かのようにも見える。
折しも同年には近隣で奇妙な生物の姿を見たり、奇怪な鳴き声を聞いたとの証言が相次ぎ、現地では伝説の人食いの怪物「バンイップ」の骨が見つかったと同時に再び姿を表したとして一種のパニック状態に陥ったという。
バンイップはオーストラリアの先住民族、アボリジニの伝説に登場する川や沼などの水辺に住むという精霊に近い怪物だ。自分の住処や縄張りを荒らされると襲いかかってくると考えられていたため、アボリジニたちは水辺にあまり近寄らないよう気をつけていたという。
バンイップの目撃証言が多数寄せられているのはオーストラリア大陸北東のニューサウスウェールズ州やクイーンズランド州。特にジョージ湖やバサースト湖にて多発している。体長は1〜2メートルほど、姿形は目撃証言によって異なるが「馬ないしはブルドッグに似た頭部を持ち、毛深く四本のヒレで行動する」というものが一般的だ。なお、この容姿は1977年にニューサウスウェールズ州のマグガイア川付近で目撃されたバンイップとされる生物の姿を元にしている。
しかし、1847年に発見された謎の生物の頭骨は、どう見ても馬や犬のようには見えない。ましてや、バンイップにはもともと一つ目である等の伝説や目撃証言も存在しない。はたして、この奇妙な頭骨は本当にバンイップのものだったのだろうか?
実は、一つ目の生物に見えてしまう頭骨をもつ生物にゾウがいる。かつて、マストドンなどの巨大なゾウの頭骨を発見した昔の人々は、これぞ神話の単眼巨人サイクロプスの頭骨だと勘違いしたのである。オーストラリア大陸にもかつて小型種であるオーストラリアゾウが生息していたが、アボリジニの流入により数を減らし、絶滅に至った。恐らく1847年に発掘された謎の頭骨は、このオーストラリアゾウの奇形のものだったのではないかとみられている。
しかし、実はもう一つ別の「バンイップの頭骨」とされる別の骨があるのだ。これは上部に大きな一つの眼窩らしきくぼみと、すぼまった口のような凹み、そのすぐ下に出っ張った顎のような部位があるというものだ。この骨の詳細については現在でも判明していない。果たしてこの骨は何なのか? もし、このような生物が存在していたとしたら、一体どのような外見になったのだろうか? 謎が尽きない頭骨である。
文:和田大輔 取材:山口敏太郎事務所