「侍ジャパンと対戦したキューバ、オーストラリア、中国、オランダ、イスラエルの選手たちは、日本の応援に驚いていました。今大会はトランペットなどの鳴り物を使った応援を禁止していますが、声援だけでこんなに球場全体に響くのか、と。日本の球場は整備が行き届いていてキレイだと感心していました」(米国人ライター)
野球文化の違いも攻撃面で表れた。日本のように大量リードしていても貪欲に1点を取りに行くスタイルに対し、「侮辱された」と誤解した投手も出たという。その通りなら、余計な敵愾心を買う恐れもある。まだ一方で、まるでマスゲームのように一糸乱れぬ日本のバントシフトに驚いていたチームもあった。技術や戦略のきめ細やかさならば、日本は世界一である。しかし、フィジカル面やパワーでは敵わない。米国内球場に多く見られる急勾配のマウンド、表面が滑るとされるWBC使用球への違和感にしてもそうだろう。
「NPBの大半の選手は学生時代に『国際大会』を経験しています」
学生野球の関係者がそんな話をしてくれた。観客席全体が敵陣営を応援するビジターゲームの苦しさはもちろんだが、学生の国際大会における練習環境は必ずしも『公平』ではないことも多かったという。日本の大学代表チームがアメリカに乗り込んだ際、現地の野球場を借りられず、陸上競技場で練習したこともあった。また、ホテルのシャワーからはお湯が出ず、冷たい水で身体を洗ったそうだ。今回のWBCで来日した海外チームに対し、日本の主催関係者は最大限のもてなしをしたが、過去の学生の海外遠征では練習環境の不公平はむしろ当たり前だったと話す。
「松坂世代の選手が大学生だったころは、陸上競技場での練習しかできませんでした。でも、和田毅は走り幅跳びの踏み切り板をプレート板に見立てて投球練習をしていましたし、野手陣もバットの振れるスペースを探して自分なりに練習していました」(関係者)
こうした不公平感のなかで、学生指導者たちは「コイツはプロに行ってから伸びる選手」と「そうでない選手」が分かったとも話していた。
急勾配のマウンド、ボールへの違和感はハンディになるかもしれない。しかし、こうした違和感や野球文化の違いを楽しむくらいでなければ、国際試合では勝てないのだ。
「今、NPBの選手が海外で自主トレをするのは当たり前のようになってきました。単に温かい気候を理由に海外に行くのではなく、現地の野球環境も同時に学ぼうとしてきた選手が、今回の侍ジャパンに招集されたようにも思います」(前出・同)
筒香嘉智(25)はシーズン後のウインターリーグで自身を鍛え上げている。野球文化、球場施設の違和感はあって当たり前…。侍ジャパンはドジャース、カブスとの練習試合を経て、準決勝に臨む。米アリゾナでの調整をかねた練習だが、風が吹くたびに土埃が舞う。行き届いた日本の球場施設では考えられないことだ。彼らには違和感を存分に楽しんでもらいたい。(スポーツライター・飯山満)
*写真、ドジャー・スタジアム