「その前に、僕は小唄の名取りということもあって、着物に興味を持っていた。着付け教室に習いに行ったら、女性は四方の鏡のところで下着姿で着付けするから、男性はダメですと言われた。『男性の着付け師は日本に一人もいないんですか?』と聞いたら、そうだと言う。それなら僕は、初の男性着付け師になろうと資格を取ったんです」
古代衣装にも造詣が深かった橋本は、京都の下賀茂神社に行き平安時代の十二単に興味を抱いた。そのことを小耳にはさんだNHKから、ご成婚日に解説の依頼が来たという。
「その時は『ザ・ロンゲストショー』に出演していたころで、タレントのマリー・クリスティーヌに新幹線の中でバッタリ会ったんです。そこで彼女が『橋本さん、着付けやっているというけど、ほんとにできるの?』と言われたから、彼女をモデルにして十二単の着付けを解説したんです」
橋本はその他に調理師資格も持っている。
「学生時代に結婚した女性と離婚して以来、一人暮らしが長かったこともあって、自分で料理を作っていたんです。僕は料理ができない女はバカだと思っている。なぜなら、次はこれ作ってあれ作るという組み立てができないからです」
多種多様な資格を持つ橋本は作詞も手掛けており、その功績を認められて平成12年に東久邇宮記念賞を受賞している。しかし、ここ10年ほどは本業のテレビの世界と無縁な生活を送っている。
「『アナウンサーを育てたら?』という誘いもありますが、今の若い人たちは言葉遣いからして違うので、育てたいと思う人材はいない。テレビの世界は嫌いじゃないですが、人間関係が嫌い。それより、講演活動を通じて啓蒙活動を積極的にやった方が楽しいですよ」
メンタルケア心理士の資格を持って、地域精神医療活動の一環として引きこもりの老人たちと面談。人との会話の重要性をアドバイスしているという。
「喋ると発語運動が働いて、脳の神経細胞に刺激を与えることができるんです。喋らなくなると声が枯れて、口の周囲の筋肉が硬くなり、会話することが億劫になる。会話だけでなく、新聞を毎日音読することも効果があると説明すると、必死になって実践してくれますよ」
その他、肥満予防健康管理士として「肥満は万病のもと。特に生活習慣病はリスクが高まるので、理想的な体重と健康な体は“健康な精神を維持する”と説明してます」と熱っぽく語る。
「講演は主に全国の企業や商工会、福祉関係が対象。年に60回以上こなしていますが、眠る人は皆無という評価を貰ってます。僕も、笑いも取って、絶対眠らせない自信があります」
テレビの世界から180度回転した生活を送っているようだ。“昭和を代表するDJ”と呼ばれ、“屋根裏の声”で視聴者の脳裏に焼き付いた“橋本テツヤ節”はいまだ健在である。
(取材・文/本多圭)
はしもと・てつや
1944年、東京都出身。慶大在籍時に文化放送のパーソナリティーにスカウトされる。その後もさまざまな番組で活躍。現在、ジャーナリスト、コラムニストとして活動。「脳の若がえりBOOK」(太陽出版)など著書多数。