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ブードゥー殺人の謎

 東日本大震災と、続く原発事故に全世界が注目していた2011年の春、イギリスは民間テレビ取材班の上げた特ダネに揺れていた。それは、アメリカの同時多発テロに全世界が注目していた2001年の秋、頭部と両手足を切り離された状態で見つかった男児の身元と名前を究明し、生前の写真を発見したというものだった。

 判明した男児の名はイポモサ、ナイジェリアから不法にロンドンへ運ばれ、そして殺害された。発見当初は仮にアダムと名付けられ、推定年齢5歳程度とされたが、事件当時は6歳であったことも判明する。

 しかし、遺体発見から身元の特定に至る道程は長く、そして曲がりくねっていた。

 まず、発見当時は頭部と両手足が切断されており、着衣もオレンジ色の半ズボンのみであったため、身元特定の決め手となる指紋や顔はもちろん、捜査当局は歯型の一部すら入手できなかったのだ。最初に発見した人物は、遺体を「樽」と思ったらしい。また、血液も大半が失われており、殺害後に血抜き処理をしたことも明らかとなった。遺体の損壊状況などから快楽殺人も疑われたが、性器は無傷で残されており、肛門にも暴行の痕跡は見受けられなかった。

 しかし、消化器系から採取した物質によって、捜査当局は大きな手がかりを得た。それは植物由来の興奮、幻覚剤で、おそらくはフィゾスチグミン(またはエゼリン)と呼ばれるアルカロイドであろうと推定された。フィゾスチグミンは西アフリカのカラバル地方で栽培されるカラバル豆に含まれる毒物で、罪人に飲ませて生き延びれば無罪、死ねば有罪という神明裁判や、生け贄の儀式などに用いられていたのである。

 そのため、男児は儀式殺人の犠牲者、つまり生け贄に捧げられたのではないかと考えられた。

 だが、男児が身に着けていたオレンジの半ズボンはイギリス国内で流通しておらず、特定は難航していた。また入国経路も判明せず、捜査は暗礁に乗り上げたのである。

(続く)

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