江戸に戻った南方仁(大沢たかお)に、野風からフランス人のジャン・ルロン(ジャン・ルイ・バージュ)との結婚式の招待状が届き、仁と橘咲(綾瀬はるか)は横浜を訪れる。そこでは洋館が立ち並び、洋風の生活が営まれていた。野風はルロンからマナーを褒められるなど、既に洋風生活に馴染んでいた。これは初めて飲むシャンパンに酔っ払う咲とは対照的で、野風は咲をからかう余裕まで見せていた。
花魁であった野風はドラマの中で異彩を放っている。他の登場人物が現代人に近い話し方であるのに対し、野風は「ありんす」など廓言葉を徹底している。高知の酒場で地元の人の話に耳を傾けて習得したという内野聖陽演じる坂本龍馬の土佐弁の評価が高いが、中谷の廓言葉も凛としており、苦界に落ちても誇りは捨てない遊女になりきっている。
もともと時代劇としては邪道に属するタイムスリップ時代劇の『JIN』が時代劇ファンからも支持された要因は、江戸時代の生活や風俗を深く描いた点にある。これは主人公の仁が庶民相手に治療するという設定の賜物で、権力者中心の正統派時代劇が見落としがちな歴史の一面を提示した。
中でも第一部では遊郭に生きる遊女達の光と闇にスポットライトを当てている。その重要人物が野風であった。その中では花魁でなくなった後も廓言葉は続けている。廓言葉は武士語や公家言葉に比べると馴染みが薄く、廓言葉で話すこと自体が新鮮である。
その上に今回は、立ち居振る舞いが洋風なのに言葉が廓言葉になっているというギャップがある。これは不自然とも受け取られかねないものであるが、中谷は廓言葉によって、野風という女性の意思や覚悟の強さを演じていた。(林田力)