何もいうことはない。その走りがすべてだ。それほどスリープレスナイトのデキは素晴らしい。
24日に栗東坂路で行われた1週前追い切り。大きく鋭いフットワークで急こう配を一気に駆け上がった。刻まれた数字は800メートル49秒6、ラスト1F13秒2。この日の坂路で50秒を切ったのはたった1頭だけ。この脚力はハンパない。“超速”タイムだった。
「見ての通り。文句のつけようがない」。坂路の動きには人一倍厳しい橋口師が笑みを浮かべれば、騎乗した上村騎手も「1週前はしっかり追っておこうという意図通り」とうなずいた。初のGI奪取へすでに態勢は整っている。
目下4連勝中。とくにCBC賞と北九州記念は、好位からスパッと抜け出し、他を圧する強さだった。1200メートル戦は9戦9勝。この夏、最も成長した馬にとって、目前にあるGIはタイミングといい条件といい、絶好の舞台といっていい。
橋口師のボルテージも上がるばかりだ。「前走の北九州記念は強いレースだった。二の脚が速くて無理なく好位につけられるのが強みだね。馬体はすごく充実しているし、ゲートさえ普通に出れば大丈夫だと思う」と勝利宣言まで飛び出した。
牝馬とは思えない丸みのある分厚い馬体。このシルエットを見ていれば、自然と自信があふれてくるのも無理はない。
鞍上を務める上村も思いは同じだ。「気分良く行けば強い馬だから、この馬に乗るときはいつも自信を持って乗っている。今回もそう。人気になりそうだけど、楽しみたい。僕がレースを壊さなければ」と話した。
上村にとって橋口師は恩人だ。目の病気に悩まされ、騎手引退の危機からようやく復帰したころ、声をかけてくれたのが橋口師だった。
「僕をジョッキーとして復活させてくれた先生の馬でGIを勝ちたい」
熱い気持ちは、ゴールした後、その目からほとばしるだろう。
そのスリープレスナイトにとって最大の敵が身内にいる。こちらも重賞連勝中のカノヤザクラだ。
アイビスSD、セントウルSともに素晴らしい内容だったが、特にすごみを感じたのは前走のセントウルSだった。ファイングレイン、スズカフェニックスとGI馬がそろっていたが、サッと好位につけると、4コーナーでは鞍上の小牧騎手が後続を確認する余裕まで見せてあっさり抜け出した。
「この前は完勝だった。前々走のアイビスSDも直線競馬で追走に手間取りながら最後はいい伸びを見せてくれた」と橋口師は成長を感じ取っている。気になるのはスリープレスナイトとの力関係だが、師は紙一重とみている。
3走前のCBC賞を持ち出して「あのときは0秒4差に負けたけど、直線でブレーキをかける不利があった。スムーズなら際どい2着はあったと思う」。夏場の急激な成長を加味すれば、流れひとつでどちらにも転びそうな情勢だ。
「使う予定だった北九州記念を自重して、セントウルSを使ったことが吉と出たね。馬体減りがなく、絶好調といえるぐらい。スリープレスナイトとワンツーフィニッシュになれば、本当にうれしいね」
夢や絵空事ではない。金メダルも銀メダルも、橋口師の首にかかる可能性はかなり高い。