「ある日、お客さんの番号からかかってきた電話を取ると相手の奥さんらしき人から“うちの旦那に手を出すな! 許さない! 慰謝料、損害賠償を請求する”と一方的に罵声を浴びせられたんです」
忍はその客と特に親密な関係にあったわけではない。通常のキャバクラ嬢がするような接客を行い、営業メールも週に1回程度。同伴やアフターも一切なく、その他大勢となんら変わらぬ客の1人だった。
「店外デートもないですし、肉体関係どころかキスもありませんでした。訴えると言われたときは頭が真っ白になりましたね」
キャバクラ嬢に散々貢いだ客が逆上し訴えると言ってくる場合はよくあると聞く。しかし忍の場合は客と一線を越えてもなければ、1度の来店に使わせた金額も2万円程度だった。これでは相手の一方的な逆上と思われても仕方がない。もし客の妻が本気で訴えるのならば通常、調査事務所などに依頼し、訴訟が届くはずだが、それ以降動きはなかったという。
「知人に相談したら法的には何の賠償義務もないから無視しておけばいいと言われたので放置しました。それからは特に連絡もなく安心したんですが、あれは一体なんだったんでしょうね。でももう夜の世界はコリゴリです」
嫉妬に狂った妻による一時的な嫌がらせだったのかもしれない。もしもこういったトラブルに巻き込まれたら自治体や法務局、商工会議所などで開催している無料弁護相談に行ってみるのもいいだろう。他にも相手の嫌がらせがエスカレートしないとも限らないので電話の音声やメールは保存しておくことも大切である。
様々な欲望が渦巻く夜の世界。揉め事が苦手だった忍は店を辞めた。現在は、長年付き合っていた恋人と結婚し、家庭に落ち着いている。
(文・佐々木栄蔵)