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日本人メジャーリーガーはどうなる?「井川慶=スクラントン・ウィルクスバリ・ヤンキース(3A)」 オフの移籍に向けた実績作り

 2008年7月、メジャー契約を解除され、40人ロースターからも外された。平たく言えば、メジャーの試合に出る権利を喪失したわけだ。「メジャーリーガー」から「マイナーリーガー」に転落したのだ。マイナーでよほどの成績を残さない限り、40人枠には復帰できないだろう。奮起を期待されながらも、お声が掛からず、そのまま5年契約の最終年である2011年を迎えてしまったのである。
 井川慶(31)の昨季の3Aでの成績は3勝4敗。22試合の出場試合数のうち、先発登板のチャンスを得られたのは10試合。「1年を通じて先発で使われていたら、勝利数はもっと伸びていた」と言う米国人ライターもいた。潜在能力は認められているようだ。それでも、メジャー契約を取り戻せないのは、『契約事項』と『投球内容』に原因があるらしい…。

 「井川が欲しい? だったら(ポスティングシステムの)落札金も…。せめてその半分でもいいから」
 井川がチーム構想から外された07年のオフから、他球団は「環境を変えてやれば活躍できる」と判断し、トレードを申し込んできた。ヤンキースは放出には合意しつつも、ポスティングシステムで投じた『約2600万ドルの落札金』を指し、「その一部でもいいから補填してほしい」と条件提示していた。
 当時のレートで、落札金は約30億円である。年俸も『5年2000万ドル、プラス出来高』(年俸約4億円/当時)。当然、他球団は「落札金までは補填できない」と憤慨し、トレードはまとまらなかった。
 「パドレスが井川の高額契約を引き継いでもいいと回答したこともありました。当時、ヤンキースは落札金の補填という条件を絶対に譲りませんでした」(米メディア陣の1人)
 また、近年では「落札金を補填しなくていいから、井川を引き取ってくれ」というニュアンスで、ヤンキースの方から他球団にトレードを打診するようになったという。ヤンキースにすれば、400万ドルもの“高額マイナー選手”を抱えておくつもりはないというわけだ。
同様に、複数の日本球団が何度か帰還を打診したとされている。マイナーで悶々としているくらいなら、日本で投げた方が良いと思うが、「すでに永住権を申請済み」との情報も交錯している。もしこの情報が本当なら、井川はメジャーにカムバックする意気込みがあるということだが…。

 補填金という足枷が取れても、他球団が井川に興味を示さなくなった理由だが、それは投球内容にあった。
 井川は先発として3Aでそれなりの勝ち星を挙げているが、走者が「いるとき」と「いないとき」とでは、別人のような投球をするのである。3Aで14勝を挙げた08年の数値にしても、そうだ。米アナリストによれば、走者がいない場面では防御率は1点台だが、走者を背負うと、7点台にまで防御率が落ち込むそうだ。「走者を背負っての被打率は5割を越えていた時期もあった」とも言うから、「先発投手が勤まるのか?」と疑問視されても仕方ないだろう。

 こうした短所は克服されつつある。少しずつだが、走者を背負った場面での防御率は良くなってきた。しかし、メジャー昇格の『決め手』がない…。
 井川はどちらかと言えば、『力勝負の投球をする投手』と位置づけられている。150キロを越えるストレート、それと同じ腕の振りから放たれるチェンジアップの威力は、阪神時代に証明されている。それでもメジャー昇格のチャンスがまわって来ないのは、「コントロールが大雑把なこと」。カーブなどの変化球でコンスタントにストライクが取れないことが指摘されている。
 力勝負をする投球スタイルはクローザー向きなのかもしれない。しかし、「走者を背負った状況での被打率の高さが完全克服されていないうえに、コントロールが大雑把となれば、首脳陣は“1点を争う緊迫した場面”では投入できないだろう。

 「井川は体力もあり、1回から9回までストレートの威力もほとんど変わりません。阪神時代は走者を背負うとダメになるなんて傾向はなかったはず。オープン戦の結果に関わらず、本番で使うとの確約がしてやれば、それなりにやるのではないか」
 阪神時代を知る他球団スコアラーの評価だ。先発投手として、天性の素質(体力)を持っているという。「ペナント本番での起用を確証してやれ」ということは、ガムシャラになれない性格なのかもしれない。そういう必死さ、危機意識の稀薄さが、走者を背負った場面での失投に繋がっているのではないだろうか。
 しかし、ヤンキースとの5年契約が終わる今オフ、井川獲得に挙手する球団はいくつかありそうだ。落札金も高額契約も関係なく、まっさらの状態から入団交渉できるので、複数球団がオファーを出すと思われる。実際、先発投手枠の空いている球団はいくつかある。ピーヴィーの故障で先発投手が揃わないホワイトソックス、ローテーションの弱体化を解消できていないダイヤモンドバックス、先発陣の防御率がワーストのパイレーツ、若手投手が伸び悩んでいるナショナルズ、サンターナの復帰が遅れ、ローテーションが苦しいメッツ、投手力そのものが弱いロイヤルズ…。
 井川自身がこうした他球団の人材難を見越して“死んだフリ”をしているのなら悲しい限りだが、実はもっとも先発投手を欲しているのは、ヤンキースなのだ。昨季の先発投手の防御率は4.35(リーグ10位)まで落ち込んでいる。「開幕後の補強トレードもあり得る」(米メディア)とのことで、井川にもチャンスはまわってきそうなのである。

 先発不足のチームを救い、オフはこれまで冷遇してきた報復でライバル球団に行く−−。ヤンキースを出て行くつもりなら、それくらいカッコイイ退団劇を見せてほしい。但し、先発人材難のヤンキースでメジャー契約を取り返せなければ、投手不足の他球団も井川獲得を見送るだろう。(スポーツライター・飯山満)

 3Aの被打率に関するアナリストのデータは年度最終成績ではありません。外国人選手名の方仮名表記はベースボール・マガジン社刊『月刊メジャー・リーグ』を参考にいたしました。

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