「真希ちゃん? ああ、ごめんね。ちょっと今接待中だからまたかけ直すよ」
「いや、ちょっとだけでもいいんで…」
ブチっという空しい音とともに切られた携帯電話を耳に当てたまま、深くため息をついた。お店を辞めて1週間。新しい店に出勤し始めるのは来月の初めからだから、あと10日は何もすることがない。
ここ数年間、仕事しかせずに生きてきた私は、久々の長期休暇に心を躍らせていた。しかし、いざ、休みに入ってみると、何もすることがないという事実に気が付く。それどころか、今まで店で女の子やお客さんとワイワイ騒いでいた時間帯を自分ひとりで過ごさなければいけないのが苦痛でたまらなかった。
きっと、私だけじゃなく、ホステスという生き物は、ひとりの夜が苦手なんだよね。誰かと一緒にいるのが当たり前になっているから、こうも毎日ひとりで過ごしていると「一生このままなんじゃないか?」って不安になる。
だから、迷惑だとわかっていながら、いろんなお客さんに電話をかけてしまう。最初は寂しがっている私に優しくしてくれたお客さんも、さすがに、毎晩同じ時間に電話をかけてこられれば、たまったもんではない。
寂しくて死んでしまいそうだと演歌染みたセリフをもらす私の右手で、急に携帯が震えた。佐々木さんだ。
「あっ、俺だけど。今日も家でひとり泣いてるの?」
「泣いてないし…」
「泣いてるじゃん(笑)。そういえば今日さ…」
ちょっと前に、私が寂しいと電話して以来、佐々木さんは毎晩のようにこうして電話をかけてきてくれる。
女の子って、夜になると情緒不安定に陥りやすいらしいけど、夜の世界で生きているホステスはその何十倍も不安になりやすいんだよ。それに、昼間は冷静に判断できることでも、夜になるとわかんなくなっちゃうの。
だからね、一晩中、ずっと優しくしてくれた男性に惚れちゃうなんてことも珍しくないんだよ。
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
http://ameblo.jp/lisa-ism9281/
https://twitter.com/#!/LISA_92819