この内、恵那司は相撲界の隠語で俗に“中盆(なかぼん)”と称される、いわゆる仲介役を果たしていたと思われる。
この状況のなかで、フジテレビは6日に予定されていた大相撲トーナメント、NHKは11日予定の福祉大相撲の開催中止を決めた。さらに、所管の文部科学省のみならず、与党の各大臣が公益法人はく奪をちらつかせる事態に陥った。
ところで、今回名前が明らかになっている13人中、仲介役の可能性が高い恵那司を除く12人の地位はほとんど当時十両。携帯メールの捜査をされたのは昨年3月場所、5月場所だが、3月場所では前頭の霜鳳(時津風)以外の11人が十両。翌5月場所では、光龍(花籠)が幕内に昇進、白乃波(尾上)が幕下に陥落し、十両は9人に減った。ただ、幕内下位と十両上位、十両下位と幕下上位は対戦の機会もあり、同じ枠内にいたと見ていいだろう。
八百長に関与した疑惑がもたれているこの十両力士たちは、なぜ金を払ってでも白星がほしかったのか? その疑問は簡単に解ける。彼らはどうしても十両以上の地位を守る必要があったからだ。
十両と幕下とでは、天と地ほどの差がある。相撲界で一人前とされるのは十両以上の関取のみ。幕下以下は力士養成員と称される。日本相撲協会から、給与等が支払われるのは十両以上。幕下に陥落すれば無給。その上、待遇面でも部屋や関取の雑用に追い回され、ルール上は大部屋での生活が義務付けられ、結婚も禁止。マゲの結い方、着物の種類等、すべてが格下げされる。
金銭面では幕下は場所手当が15万円支給されるのみ。他にはわずかばかりの勝星奨励金、勝越金が出るだけだ。一方、十両は月給103万6000円。他に年間2カ月分の賞与、出張手当、力士補助金、力士褒賞金が加算され、年6場所十両を維持すれば、おおよそ1620万円ほどの収入が得られる。年収100万円にも満たない幕下とは、まさに天と地の差なのだ。
むろん、幕内と十両でも給与の格差は大きいが(平幕の月給は130万9000円)、十両と幕下ほどの格差はない。だから、十両力士はいかに幕下に落ちずに十両以上を維持するかに必死なのだ。まして、八百長を認めた竹縄親方のように、力が落ちて十両に陥落した力士は、もはや幕内復帰の希望も乏しく、十両維持は切実な問題。だから、金を払ってでも星を買う。ただ、八百長は自分1人ではできないから、仲間内みんなが地位保全できるよう、困っている力士には逆に星をあげる必要も出てくるわけだ。
こんなことが起きるくらいなら、十両と幕下の格差を縮めたらどうかとの意見もある。だが、それはできない相談。天と地ほどの格差があるからこそ、力士は強くなって十両に上がれるよう稽古に励む。プロ野球の一軍と二軍、JリーグのJ1とJ2でも、大相撲同様に年俸に限らず、諸々の格差が大きいはずだ。
八百長に手を染めたと思われる十両力士たちが、白星確保に躍起になったのには、このような背景がある。だからといって、八百長をしていいという論理にはならない。
(ジャーナリスト/落合一郎)