河童のミイラと呼ばれているものが、日本全国に数体存在する。全身がそのまま残っているものの他に、手だけなどの部分的なものもあり、写真などで見たことがある人も多いだろう。
しかし、精密な検査などを行なうと、まがい物であることが判明した例もあり、それを河童実在の証拠と呼ぶには無理がある。
もちろん生きた河童を捕獲し、科学的に検証を受けて実在が証明されたという話は聞かない。いわゆる『誰もが認める決定的な証拠』というものは存在しない。やはり河童の存在は迷信や伝説ということになるのだろうか。
私は実話怪談を書いているが、話を提供してくれた方々の中に、実際に自分の目で河童を見たという方が二人ほどいた。その話の一つを紹介したい。
今はOLをしている千夏さん(仮名)の高校生の頃の話である。彼女は福岡県中間市に住んでおり、近くには遠賀川が流れている。
その日、下校途中に川沿いを歩いていた千夏さんは、見慣れぬ生物が川べりに佇んでいるのを見つけた。
20メートルほどの距離で見たその生物の手足の指は、人間のそれではなく、水掻きのようなものが付いており、頭頂部には毛がなく、皿のように見えたという。
どこからどう見ても、俗にいわれている『河童』であった。
しばらく千夏さんと見詰め合っていたその生物は、急に背を向けると川に飛び込み、物凄く激しいクロールで泳いで逃げていったという。
この話が存在の証拠になるとは到底思えないが、私は話の提供者が嘘をついているようには思えなかった。また『河童が激しいクロールで泳ぐ』というのは、笑い話にもなってしまうが新鮮でもあり、情報の信憑性を高めているように思えた。
存在を証明することは難しいが、貴重な目撃譚は古今東西多数語り継がれており、それらすべてが見間違えや虚言とも思えず、存在を一概に否定できるものではないだろう。
(実話怪談記者・へみ 山口敏太郎事務所/イラスト・増田よしはる 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou