いつもの穏やかな表情を少し引き締めて、池江郎調教師は言い切った。
「僕自身、この馬だけはどうしてもダービーに出走させたかった」
毎年、有力3歳馬を多数抱えている。今年も例にもれず素質馬がそろっているが、ことダービーとなれば適性、潜在能力ともにアプレザンレーヴが抜けているという。
それを実証したのが前走の青葉賞だ。淡々としたペースの7、8番手を追走。気負うことなく流れに乗った。直線、坂下からの追い比べで外からトップカミングに交わされたが、差し返す勝負強さを見せつけた。ダービーと同じ条件で示したしぶとさ、したたかさは、皐月賞とは別路線組の中にも怖い馬がいることを印象づけた。
「外から一度交わされてね。普通の馬ならあれで戦意を喪失してしまうもの。あそこから盛り返すんだから、相当にいい勝負根性をしている」
父のシンボリクリスエスもそうだったが、520キロを超す馬体はゆとりがあって、懐の深さをうかがわせる。「レースを使うたびに力をつけているし、まだまだ底を見せていない。伸びしろは十分に見込める」と言うのもうなずける。
中間の動きにも晩成らしさが出ている。20日の1週前は栗東DW。追いかけた分、併せたウインヴェロシティ(3歳500万)には遅れたが、6F79秒8の好タイムをマークした。以前は攻め駆けしなかっただけに、6F80秒を切ったのは成長の証し。騎乗した村本助手は「とても良かった。何の心配もない」とうなずいた。
父のシンボリクリスエスは02年の青葉賞を勝ってダービーに挑んだが、タニノギムレットの2着に甘んじた。古馬になって絶対王者として君臨したが、ダービーだけは置き忘れた夢。あれから7年、同じローテーションで息子が父超えに挑む。
池江郎師にとっても、ディープインパクトで無敗の3冠を制した05年以来となる2度目のダービー制覇のチャンス。「仕上げにはベストを尽くす。当然、期待しているよ」。名伯楽が見抜き、ほれた素質。遅れてきた大物が、一気に頂点を狙っている。