その投手の名前は、黄志龍(20=ファン・ツーロン/国立体育大学院)。09年9月、野球・ワールドカップの日本戦に先発し、延長10回を投げ、「被安打4、失点1」と好投。メジャースカウトも「王建民(ヤンキースよりFA)の再来」と興味を示したが、黄本人の「日本でやりたい」という強い希望によって、巨人入りが決まった。黄は右投手だ。ではなぜ、「台湾の菊池雄星」と言ったかというと、彼は八百長事件で揺れる台湾プロ野球界の「ダーティイメージも払拭してくれるのではないか」とも期待された期待の星だからだ。
日本が台湾、韓国の有望なアマチュア投手を“強奪”したのは、今に始まった話ではない。84年のロサンゼルス五輪で好投した郭泰源を獲得して以来、日本の12球団は台湾を「好投手輩出の宝庫」とも位置づけてきた。
巨人を責めるつもりはないが、「言っていること」と「やっていること」が矛盾している。昨秋のドラフト会議では菊池の説得し、メジャーリーグ側(米国)には「人材流出の危機」と抗議しておきながら、一方で台湾を“草刈り場”にしているのである。
2010年のプロ野球・ドラフト会議は、その規約変更を話し合う。現行の完全ウエバー制を維持するのか、それとも『自由枠』を復活させるのかが最重要テーマだが、有望新人のアメリカ流出を「どう阻止するか」も検討しなければならない。
「アスリートはより高いステージを求めるもの。野球選手のメジャーリーグ指向は止められない」
大多数の関係者がそう溜息を付く。
現行ルールでは、日米双方とも有望新人の獲得は獲得しない決まりにはなっているが、それはあくまでも『紳士協定』であって、拘束力はない。
昨年7月、日本野球機構・コミッショナーに迎えられた加藤良三氏は、駐アメリカ合衆国行使も歴任した外交通だ。この加藤氏がメジャー側との交渉に乗り出せば、現行の紳士協定から『規約』に進展するはずであり、台湾、韓国との共存についても、何かしらの取り決めがなされるはずだ。しかし、そうした動きは全く聞こえてこない。(スポーツライター・美山和也)