『高円寺・東京新女子街』の冒頭「高円寺ガーリー日記」には、多くの写真が掲載されている。鮮やかな場面の数々は、しかし注意をして見ると、けっして夢の中の風景ではない。森の様子を形作る面格子だったり、雑穀入りご飯のハヤシライスだったり、路地を挟んだ向かい側の店内が見える風景だったりする。
きれい、おしゃれ、楽しい、そんな形容詞を脳みそからひっぱり出してくることは簡単だが、「高円寺ガーリー日記」の風景は、頭よりも、心に響く。大げさに言えば、今すぐ、踊りたくなる。
「はじめに・時代とシンクロした高円寺」には、「高円寺が今とてもいい。とても時代に合ってきている」と記されている。本文には、人がつながる「好縁寺」と紹介されている個所もある。また、村上春樹の小説『1Q84』のなかで、なぜ高円寺が重要な舞台となっているのかを取り上げた「特別分析・村上春樹『1Q84』と中央線の呪い」(中念寺行男)も収録されている。
『高円寺・東京新女子街』で、印象に残った個所がある。
都市論や都市計画論の視点から、街中には多くのパーツが必要であり、かつ、それぞれのパーツが複数の機能を果たすことが望ましい、とする内容の論考が紹介されていた。
なるほど、高円寺にはそんな場所がたくさんある。例えば、JR高円寺駅南口にある「みじんこ洞」という飲食店では、トークライブやミニコミ誌の即売会を定期開催しているという。しかも、店内の椅子やテーブルは手製。内装工事は、壁紙の貼り付けからスピーカーの設置まで、開店前に自前で完成させた。
高円寺は、自由に歩くことができる街だ。ユニークな建築物、植物に囲まれた階段、手書きの看板、どれも人にやさしい。そして、『高円寺・東京新女子街』の著者の若者を見る「まなざし」が、温かい。(竹内みちまろ)