まず、打撃陣の誤算は岩村明憲の不振だろう。岩村は5月14日に登録を抹消された。24試合に出場し、打率1割6分9厘。打点「1」。岩村は早打ちせず、ジックリと相手投手のボールを見極めていくタイプだった。たとえ2ストライクまで追い込まれても、最後のひと振りで仕留める勝負強さはメジャーでも評価されていたが、09年シーズン後半から「打ち損じること」が多くなった。楽天に移籍した今季も、勝負強いバッティングは蘇っていない。
「実績のある選手なので、試合のなかで調整していけると星野監督も判断したのでしょう。でも、チームも負けが込んできて、岩村に『猶予』を与える余裕がなくなってきた…。そういうことですよ」(ライバル球団スコアラー)
打撃部門を統括する田淵幸一ヘッド兼打撃コーチから、岩村に何かをアドバイスしたという話は聞かれない。
楽天打線の破壊力不足は昨季からだが、チーム総得点「71」は12球団ワースト(5月20日時点)。チーム平均打率2割3分2厘はリーグ4位。西武のチーム平均打率も同じ数値だが、チーム総得点は「99」。いかに得点効力が悪いのかも再確認できる。
コーチスタッフの配置換えも行われたが、今のところ、その効果は表れていない。確か、キャンプ中の星野監督は「機動力を使った攻撃を」とも語っていたが、星野監督の言う「機動力」とは、どんなスタイルを指しているのかだろうか。単に「次の塁を狙う貪欲な走塁意識」だけなのか、それとも、盗塁、犠打、エンドラン、右方向への打撃などを絡め、「1点」をコツコツ積み上げていくスタイルなのか、今1つ伝わって来ない。昨季3割1分8厘の高打率を誇った鉄平が不振なのも痛い。
そういえば、田中将大が延長10回を投げ、1対1の引き分けとなる試合もあった(13日/対千葉ロッテ戦12イニング)。この日の対戦投手は成瀬。好投手が相手となればなかなか点は取れないものだが、岩隈、田中が投げる試合は確実に勝っていかなければ、これから先はもっと苦しくなるだろう。成瀬から大量得点を奪うのは難しいが、せめて「右方向に転がす=進塁打」などの工夫はすべきだろう。楽天は足の速い選手が多いだけに、今の「ただ打つだけの野球」はもったいない。全員で点を取りに行こうとする意識がなければ、チームは勢い付かない。
岩隈、田中はともに6試合に先発して3勝(5月24日時点)。勝率で見てみると、田中は7割5分、岩隈は6割。先発3番手の永井怜までは6割強の勝率だが、4番手以降のローテーション投手が投げる試合になると、勝率は一気に下がる。今季の星野監督は中日、阪神時代と違って、『絶対的な守護神』(クローザー)を持っていない。先発4番手以降が投げる試合は「ある程度の失点」を覚悟しなければならないのはどのチームも同じだが、セットアッパー、クローザーも不安定なため、6イニング目から継投策を仕掛けられない。そういう影響もあるのではないだろうか。
「先発投手に長いイニングを投げさせる」不安といえば、岩隈はすでに47イニングを投げている(6試合)。9イニング目を投げる試合も多く、右肩の違和感を訴えたのはそれが原因ではないだろうか。先発投手を引っ張りすぎる星野采配はちょっと気になる。
得点効力が悪いこと、頼りになる救援投手が見当たらないこと。それが岩隈を長く引っ張りすぎる原因だろう。岩隈が故障離脱するようなことになったら…。
楽天は年間人件費(選手総年俸)を決めたら、「その枠内で収める」経営スタイルだと聞く。星野監督も育てたいという気持ちを今まで以上に強く持っているそうだが、投打ともに「1枚足らない」。岩村は復調する。そう信じているが、チームの目標がクライマックスシリーズ進出ならともかく、「東北の力になる」という責務もある以上、せめて、救援タイプの投手を緊急補強すべきではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)