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西田隆維の『映画今昔物語』 第5幕 「男はつらいよ…口笛を吹く寅次郎」

 《今日のテーマ》「またしても寅さん。1983年に公開された32作目です」

 今回、寅さん御一行は博(前田吟さん)の亡き父3回忌法要が執り行われる備中は高梁の地へ…。恐ろしい事にそこで、現地の酔っ払い和尚(松村達夫さん)に寅さんは気に入られてしまい、彼の寺に住み着いてしますのです。
 勿論、酔っ払いの和尚がいたから−−ではありません。そこには今回の「マドンナ」である和尚の娘・朋子(竹下景子さん)が住んでいたからなのです。尚、博から観た朋子の印象は「美しさの中にどこか知性を秘めた女性」というものでした。
 それからというもの、寅さんは和尚と帯同し、法事・法要に出向き、その「現場」を見事にこなすのです。
 特に、法話などは、秀逸で−−。
 「天に軌道がある限り〜…奥さんご主人の浮気に泣かされる相が出ています」
 「ご主人はなかなかの男前…あなた(ご主人)がやめて(浮気)も女子(オナゴ)がほっとかない」
 な〜んて、大人気。的屋をやっても、僧侶をやっても寅さんは「寅さんスタイル」を崩さない。何をやっても“サマ”になるのです。
 そうこうしているうちに、諏訪家の3回忌の法要日がやってきました。ご周知の通り、諏訪家が一堂に会すると、高確率で言い争い(ドタバタ論争)が始まります。案の定、ご多分に漏れず今回も「論争」が勃発したのです。いつもいつも同じ展開で、同じやりとりなのですが、僕が気になるのは、その「論争」中に絶妙なタイミングで飛び込んでくる満男こと吉岡秀隆さんの表情。何とも言えません。
 いつも「子供はあっちに言ってなさい」と大人たちに邪魔者扱いされるのですが、その時の吉岡さんは素晴らしい。当時は子役なのですが、その時から名優として、天性の才能を持っていたように思います。何しろ、吉岡さんの視線を落とした時の切なそうな顔のつくり(表情)は絶品。そればかりか、何かを言いたそうな雰囲気を作り中々、セリフを切り出さない間の取り方は、同じ土俵に立つモノとして(えっ? 吉岡さんと西田を一緒にするなって…すみません。調子に乗り過ぎました)見習いたいところです。
 そればかりか、満男は小声で細々と語るのですよ。それも又、役にフィットしていて「上手いな〜」と僕を唸らせる場面です(もっとも、お前に言われなくてもそんな事、重々承知だ! でしょうが…)。

 話が随分と横道に反れましたが(毎度毎度恐れ入ります)、今回(32作)では、和尚の付き人として寅さんは活躍。被りモノをして登場した寅さんですが、満男には通用しません。被りモノをした御仁が寅さんであると分かった満男は皆が寅さんもとい被りモノの御仁に感謝の念を示しているのに素知らぬ顔。皆が深くお辞儀をしているのに満男だけは身体こそ倒しているものの顔は被りモノのオトコを直視しているのです。
 この後、いつもの様な経過を辿り寅さん御一行は葛飾・柴又に帰るのです。そこで、寅さんはおいちゃん、おばちゃん、裏工場のタコ社長から、いつもの様に質問攻めに遭うのでした。
 ドンドン話はヒートアップするのが、この場面。寅さんもアツくなり、よくあるのは「ここで満男はいなくなる」(大人の話し合い場面ですから)のですが、今作では何故か、最後まで満男は登場していたのです。「だから?」−−だから」…何でもないです。僕はいつでも何処でも「満男の姿を追っていますから」…単なるストーカーですよ、これじゃあ。
 そして今作で、「見逃してはいけないところ」と言えば、朋子の弟・一道(中井貴一さん)と恋人・ひろみ(杉田かおるさん)の場面でしょう。
 このカップル、相当凄いです。この当時は、携帯電話は勿論、テレフォンカードすら無い時代。10円玉を大量に従え一道は「赤い公衆電話」でひろみと話すのです。しかも、電話の前には、《はじめの一本 打つな 打たすな 覚せい剤》のポスターが貼られているのです。
 時代、まさに「時代」を感じさせますね。まあ、この映画が公開された83年といえば、僕はまだ5歳−−「そんな時代」なんて言える立場にありませんね。当時、幼稚園の年中さんだった僕が83年の時代背景など知るよしもありませんから。
 又、今回は朋子が次の様な事を一道に言っていたのも興味深かったです。
 『何か困った事があったら姉ちゃんか寅さんに相談したらええ』
 …葛飾・柴又では皆から「フーテン」と呼ばれている寅さんも“遠征先”では、頼りにされる「偉人」なのですね。

 良くも悪くも(?)「話題性のあるオトコ」寅さん。西田隆維もこんなメチャクチャな映画評を書き、「話題性十分」なオトコを目指したいと思います。
 目指すは「車 寅次郎」!

<プロフィール>
 西田隆維【にしだ たかゆき】 1977年4月26日生 180センチ 60.5キロ
 陸上超距離選手として駒澤大→ エスビー食品→JALグランドサービスで活躍。駒大時代は4年連続「箱根駅伝」に出場、4年時の00年には9区で区間新を樹立。駒大初優勝に大きく貢献する。01年、別府大分毎日マラソンで優勝、同年開催された『エドモントン世界陸上』日本代表に選出される(結果は9位)。
 09年2月、現役を引退、俳優に転向する。10年5月、舞台『夢二』(もじろう役)でデビュー。ランニングチーム『Air Run Tokyo』のコーチも務めている。 

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