店頭では、今では珍しくなった縞(しま)のサインポールが回っており、レトロな店構えは逆にお洒落なムードを演出している。最近流行の昭和ブームというやつであろうか。今の親父さんは2代目で、先代は10年以上前に他界している。
「先代も腕が良かったが、2代目もなかなかのもんだ」
40年以上も営業している老舗の床屋らしく多くの常連さんがいるのだが、2代目の評判も悪くはなかった。
2代目のおやじさんは無口だが、おばさんは話好きであった。ライターのUさんは帰省するたびにこの店を訪問し、散髪してもらうのが常であった。
「あら、帰ってきたの?仕事は忙しそうね。ライターさんだよね」
「そうでもないよ、プライベートの人付き合いの方が大変だよ」
ややおばさんのおしゃべりは「うざい」と思えるが、親父さんの腕前は一流。Uさん自身この床屋以外は考えられないのだ。
「どう?出来上がり、見てよ」
ぶっきらぼうに手鏡を見せ、後頭部の出来上がりを見せてくれる親父さんはなかなか粋な存在だった。
しかし、悲劇が起こった。
60才を目前にした親父さんが仕事中に倒れてしまったのだ。おばさんの懸命な看病もむなしく、親父さんはそのまま亡くなった。しばらく、店は休業中だったが、立ち直ったおばさんの手で再開した。
当然Uさんも、そこのお店に通った。
「いつも、ありがとうね」
「俺はこの店が好きだから、おばさんも頑張ってね」
気丈に振る舞うおばさんの姿は涙を誘うものだった。
おばさんは懸命に仕事をしてくれた。終わったあと、あの親父さんがしてくれたように手鏡を後頭部にあてて、仕上がりを見せてくれた。
「どう?出来上がり、見てよ」
(ええっ?)
その時、あの亡くなった親父さんの声が聞こえたような気がした。
僕が気を取り直して合わせ鏡を覗くと、あの親父さんが
(にや〜っ)
と笑って映っていたのである。
(山口敏太郎事務所)