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余命半年のアナロ熊

 1月20日(水)に検索サイト「Google」トップページのロゴが、いつもの赤・青・黄・緑のカラフルな配色ではなく、白黒になっていた。真ん中「o」の中には謎の「イ」という文字が。そのロゴをクリックすると「高柳健次郎」の検索結果が表示された。

 高柳健次郎さんは「テレビの父」とも呼ばれる人物で、1899年1月20日は、彼の誕生日だった。1926年12月25日に彼が初めてブラウン管に映し出したものが「イ」という文字。その日は大正最後の日でもあった。昭和と共に始まった日本のテレビの歴史は84年にもなる。

 NHKがテレビ放送を開始した1953年(昭和28年)2月1日から数えると、もうすぐ68年目。テレビの父・高柳さんは1990年7月23日に91歳で大往生を遂げたが、地上波アナログ放送は70周年を前にして、今年7月24日に幕を閉じることとなる。その日はちょうど高柳さんの命日の翌日に当たる。

 今年に入ってから、テレビの黄金期を支えてきた大御所の訃報が続いた。『笑っていいとも』や『オレたちひょうきん族』などの人気バラエティ番組を手がけた、元フジテレビプロデューサー横澤彪さん(享年73)に、タレントとしても活躍した、元NHKディレクターの和田勉さん(享年80)。アナログ放送の終了を目前にして、勇退されたようにさえ思える。

 それにしても昔のテレビは面白かった。これは単なる懐古趣味で言ってるわけじゃなくて、規制が緩かったから今のネットに近いカオス感というか、勢いがあったという話。テレビの歴史を振り返る特番で、白黒時代のバラエティ番組を観たら、芸人がゲストと野球拳をして、女優の衣装をセリにかけるなんてのもあった。おそらくコント55号の番組だったと思う。

 それと同時に、近頃またテレビは面白くなってきているとも思う。ネットに押されて躍起になったおかげで、かつてのアングラ感を取り戻しつつあるからだ。不況によるギャラ低迷への抵抗なのか、ベテラン芸能人が若手顔負けなほど体を張る場面を見かけることも増えた。どこか戦後の闇市にも似た背徳的な熱狂が、復活の兆しを見せているように感じられる。

 地上波デジタル放送のイメージキャラクター「地デジカ」は鹿がモチーフになっているが、それに対抗してアナログ放送を象徴するキャラとしてネットから産まれたのが「アナロ熊」である。野性の熊が里に降りてきて農作物を荒らしたり人を襲ったりすることもある一方で、動物愛護や絶滅危惧の観点もあり、議論を呼ぶこともある。

 アナログ放送が人間に危害を加えるとは思えないが、とにかく駆逐されることとなった。粒子の粗い気の抜けた画面に癒されてきたアナログ人間の僕にとっては、ちょっと寂しい気もする。アナログ放送の最終日は日曜日なので、一日中テレビを見て追悼したいと考えている。あるいは地デジ移行にともない、東京スカイツリーに電波塔の座を奪われる東京タワーを墓標と見立て、アナロ熊を弔いに行くのもいいだろう。

 ところで亡くなる間際の人が急に元気を取り戻す「魔法の時間」があるという。よみがえりつつ感じられるテレビの底力が、そういう類のものでないことを祈りたい。(工藤伸一)

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