松坂大輔(30=ボストンレッドソックス)の09年4勝6敗、防御率5.76。翌10年9勝6敗、防御率4.69。メジャー4年間の通算成績は46勝27敗だから、この2年間の不振の大きさが分かる。
昨季はDL入り(故障者リスト)もあったが、シーズンを通して25回の先発登板を果たした。「体調が万全ではないのにそれなりの成績を残した」と報じたのは、日本人メディアだけ。いや、そういう前向きな記事を書いた彼らも、本当は復活を祈るような気持ちでいたのが真相だ。
そもそも、松坂の不振が予見されたのは09年2月。WBC・日本代表の合宿前、松坂は古巣西武のキャンプに合流した。西武ナインはメジャーで成功した元同僚を歓迎したが、渡辺久信監督だけは違う反応を見せた。言葉を選ぶようにして、『投球フォームの乱れ』を指摘した。
その件は松坂も自覚していた。しかし、WBC本番までの“タイムリミット”を考え、突貫工事の応急措置をするしかなかった。松坂は日本代表の連覇に貢献したが、同年のペナントレースは散々…。昨季も9勝こそおさめたが、25回の先発登板のうち、クオリティー・スタートができたのは10回だけ(6回を3点以内に抑える)。
松坂がオフも厳しいトレーニングを重ね、2011年のキャンプに臨んだのは既報通りだが、現時点では完全復活とは言いきれない。
古巣西武の関係者がこう指摘する。
「メジャー流の調整がしっくり来ないんじゃないかな。『肩は消耗品』なる考え方が徹底していて、練習中にも投球制限が掛かるくらいだから。松坂はある程度の投げ込みをして仕上げていくタイプだから」
実際、松坂はレッドソックス首脳陣の監視下から逃れるWBCでは、試合前に100球近い投げ込みや遠投をやってから、マウンドに上がっていた。
また、メジャーの高くて固いマウンドが松坂の投球フォームを崩す遠因になったとも伝えられている。こちらも関係者が認めていたが、松坂はメジャーで5年目を迎える投手である。調整方法、マウンドの違いが不振の原因だとしたら、それこそプロ失格である。
「捕手との呼吸が合わないとも指摘されて切る」(米メディア陣の1人)
チームの精神的支柱でもあるジェイソン・ヴァリテクは今季39歳となる。松坂はヴァリテクと組んだとき、好投する傾向がある。これは同僚投手のベケットもそうであり、地元メディアは「登板投手に応じて、キャッチャーを代えることも必要」と伝えてこともあった。ただ、チームとしては昨季途中に獲得したジャロッド・サルタラマキーア(25)を正捕手に育てたいと思っている。
松坂はこのサルタラマキーアと合わせようと努力もしているそうだが、オープン戦を見る限りでは「お互いがまだ気を遣い合っている感じ」(前出・同)だという。
レッドソックスの先発5人候補はジョン・レスター、クレイ・バックホルツ、ジョン・ラッキー、ジョシュ・ベケット、ベテランのナックルボーラー、ティム・ウェイクフィールドと松坂が「最後の1枠」を争う図式だ。
新任のカート・ヤング投手コーチは「松坂の調子は上向き」とコメントしていたが、同コーチがもっとも気に掛けているのは、マーリンズからトレード獲得したアンドルー・ミラー(25=左投左打)である。ミラーは将来を期待されていたが、昨季1勝しかできなかった。ヤング投手コーチはアスレチックス時代、ゴルザレスなど伸び悩んでいた投手を蘇生させてきた。その蘇生手腕を買われてのレッドソックス入りであり、松坂にとっても大きなプラスになると思われた。しかし、マンツーマン指導にあたったのはミラーだけだ…。こういうチーム内の扱われ方を見ていると、「地元紙が踊らせていた放出説はマンザラでもなさそうだ」と思えてしまう。
「ウェイクフィールドは通算200勝まで、あと7勝。7勝させるまでは(ペナント中盤)ウェイクフィールド優先で行くと思う。ウェイクフィールドは今季限りでの引退も表明しています。200勝到達後、5人目の先発枠を松坂とミラーが争うことになるのでは…」
そう予想する特派記者も少なくなかった。
松坂にとって厳しいシーズンになりそうだが、昨季、チームは故障者続出で優勝争いから脱落している。松坂もその1人だったが、現在の体調を持続できれば、首脳陣の評価を一変させる登板機会も来るだろう。まずは、ヤング投手コーチを振り向かせることだ。(スポーツライター・飯山満)
外国人選手名の方仮名表記はベースボール・マガジン社刊『月刊メジャー・リーグ』を参考にいたしました