この巻は前巻の続きである「もうひとりいる!」編が決着する。この「もうひとりいる!」編は白竜の偽者が暗躍する話であるが、偽物の正体は以外にもあっさりと判明する。白竜を騙った不届き者への白竜の対応が冴える。
次の「情報の死角」編は、連載中断を余儀なくされた問題作「原子力マフィア編」に代わって連載された話である。「原子力マフィア編」は原子力発電所の危険な実態や利権を生々しく描き、連載時に起きた福島第一原発事故を予見していると話題になった。
それに代わる「情報の死角」編は、個人情報の漏えいをネタに企業を恐喝する話である。この「情報の死角」編の連載時にも現実社会で作品とリンクする事件が起きた。ソニーが運営するプレイステーションネットワークで個人情報が流出した。原発事故に続いて作品が現実社会を予見した。
しかし、連載中断で萎縮したためか、「情報の死角」編での白竜の解決策にはヤクザ的な荒々しさはない。白竜の役回りは民事介入暴力の専門家と変わらず、ヤクザである意味がない。もし現実に白竜のような解決策を採ったならば、ヤクザの世界から総スカンを食らうだろう。
ヤクザは社会的には悪とされる。それでもヤクザがヒーローとなりえる理由は、権力と癒着して正義面する巨悪を倒すためには無法も必要という感覚が存在するためである。正攻法では隠蔽されてしまう巨悪をヤクザが倒すからこそ、『白竜』には勧善懲悪的なカタルシスがあった。過去の白竜は腐敗した警察権力とも戦っている。これらの白竜に比べると、今回は優等生的で物足りない。
連載中断は「原子力マフィア編」をターゲットとしたもので、『白竜』の作品自体を否定するものではない。しかし、表現の自由が「傷つきやすい」と言われるように、連載中断の後遺症は意外なところに残存する。次巻に続く「六本木極楽浄土」では本調子の白竜が見られることを期待したい。
(林田力)