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ハリファックスの切りつけ屋は実在したのか?(4)

 第二次世界大戦前の1938年11月、カナダのハリファックスで若い女性のふたりづれが暗がりで鋭利な刃物を持つ男に襲撃され、命からがら逃げ出すという事件が起きた。その数日後、別の若い女性が同じように襲われ、九死に一生を得た。新聞は「ハリファックスの切りつけ屋」と名づけて恐怖を煽り、人々は姿なき襲撃者におびえ、警察の対応は後手後手に回った。やがて住民は自警団を結成して夜間の巡回を始めたが、襲撃犯と誤認された男性や少年が自警団や酔っぱらいから暴行を受けるといった二次被害も発生し、当時のハリファックスは集団パニックを引き起こしたかのような有様だったとされる。

 そのため、地元警察はイギリスのロンドン警視庁へ応援を依頼し、犯罪捜査の経験を積んだ警部らを招聘した。警部らが到着したその日も襲撃事件が発生し、さっそく捜査に着手するとともに、これまでと同様に辛くも逃げ延びた被害者から詳しい事情を聞いた。その結果、驚くべき背景が明らかとなり、事件は急転直下の解決をみたのである。

 まず29日夜に発生したふたつの襲撃事件においては、被害者とされた女性がふたりとも自作自演の狂言であることを自白した。さらに、当夜に再び襲撃を受けたと主張していた女性は、別の襲撃事件についても狂言を自白し、それから翌日までには被害者の半数以上が自作自演を告白したのである。

 事件解決を受けた地元紙は「ハリファックスの恐怖は終わった」とトップに掲げ、さらに「半ば狂気の野生の眼をした男が夜な夜なうろつき、無力な女性を襲っていたという説は粉砕された」と、他人事のように報じた。

 結局、襲撃を受けたとされる女性のうち5名が逮捕され、その4名に有罪判決が下った。しかし、襲撃狂言を自作自演するに至った動機や、それぞれの女性たちが共謀していたのか、あるいは単なる模倣犯にすぎないのかなどといった、事件の詳細についてはいまだに明らかとなっていない。また、当時の時代背景もあってか、狂言を演じた女性たちの精神状態については、医学的な検査も行われなかったようだ。

 なによりも謎めいているのは、なぜ突発的に狂言自傷事件が発生し、数日の間に広まって模倣犯あるいは共謀犯を生み出し、数万人が暮らす都市をパニックへ陥れたのか、その要因が全くわからないということだ。

 まさに、現代社会のミステリーといえよう。

(了)

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