「都内でもおしゃれスポットで知られる中目黒にある美容室『forest』が、それです。杉本知香さんという女性に髪を切ってもらうと売れるというジンクスが、よしもと芸人を中心に広まったからです。きっかけは、オーナーが千原せいじ(千原兄弟)さんと親しかったから。せいじさんの紹介で、芸人が来るようになったのです」
杉本さんのインスタグラムに最近アップされただけでも、雨上がり決死隊の宮迫博之、ブラックマヨネーズの小杉竜一、ガリットチュウの福島善成、宮川大輔、千鳥のノブ、FUJIWARAの原西孝幸、ケンドーコバヤシ、ナインティナインの岡村隆史、麒麟の川島明ほか、テレビでおなじみの人気タレント芸人がズラリと並ぶ。
完全紹介制にして予約制。アシスタントをつけない手狭な店内は、4席のみとあって、紹介なき一般人が彼女のテクニックにふれることはできない。しかし、彼女は、芸人から絶大に信頼されている人気ヘアアーティスト。ギャグや芸風を見て、それがさらに引き立つようなヘアを瞬時に判断して、はさみを入れる。結果、それまでのイメージをガラリと変えることも珍しくない。
せいじが同店の常連になったきっかけは、やや不純だ。ヘアサロンのオーナーと偶然同じ飲み屋で飲んでおり、意気投合。後日、口約束ではなく、本当に来店して、杉本さんのセンスに惚れこみ、「こいつも切ったってくれや」と知人をどんどん紹介していった。そこから口コミで広まり、気づけば顧客は芸人だけで80人にまで膨らんだ。
「その人の芸人キャラを引き立たせて、自信を持たせる」ことが杉本さんのモットー。原西の“オンザまゆ毛”の特徴あるスタイルを編み出したのも、彼女だ。また、およそ12年前、麒麟の田村裕が自伝『ホームレス中学生』(ワニブックス)を出版して社会現象となった時、相方の川島は“じゃないほう芸人”と蔑まれた。この時、“杉本マジック”にかかった。細かなカットが入るショートヘアに一変すると、徐々に大喜利や文学、コメンテーターといったインテリ路線での才能が認められ、現在の地位を築いた。
“髪のマジシャン”によって強運を到来させた芸人は数知れず。ナカメというトレンドタウンに、髪の女“神”がいたのだ。
(伊藤雅奈子)