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甲子園ダークサイド情報 カントクはつらいよ(3)

 1人の中年男性が河川敷の野球場に降りてきた。そこで中学生の球児を教えていたチーム監督のもとに近寄り、エース投手を指してこう言った。
 「あの子の自宅を教えてくれないか?」
 彼は関西圏有名高校の者だと名乗った。強豪校のスカウトが日本中に張り巡らされていることは、同じ硬式中学野球組織の『横の繋がり』で聞かされていた。個人情報の漏洩にうるさい親も多い。その監督が躊躇っていると、中年男性は胸元から名刺を取り出した。肩書は教頭…。
 「教頭先生なら、問題ないと思って教えてしまったんです。それがそもそもの間違いでした」(同監督)
 しかし、教頭を名乗った男は全くの部外者だった。“自称教頭”はその強豪校監督と個人的な知り合いに過ぎず、勝手にスカウト活動を行っていたのだ。
 「その高校の監督は知っていたかって? 『知らない』って言っていましたが…」(中学チームの監督)
 似たような『被害』を訴える声は少なくないという。

 勝手に、教頭を名乗るのは悪質だ。しかし、高校野球の監督のなかには有望中学生を発掘するため、個人的なツテを使うケースもあるそうだ。
 10年ほど前、西日本地区に新興私立高校が出現した。少子化による経営難を打破するため、女子校から共学に切り換えたのだが、男子生徒を獲得するため、野球部とサッカー部に力を入れていくという。その野球部の監督に招聘されたのは、地元強豪校のコーチだった。ハッキリ言えば、引き抜きである。
 引き抜かれた側の“妨害工作”が始まった。有望中学生を青田刈りし、新興私立高校の部員集めを妨害した。
 初代監督に選ばれたコーチは、新興私立高校側から「5年以内に甲子園へ」の条件を突き付けられている。甲子園出場を果たすのは並大抵ではない。その苦労は強豪校のコーチを務めてきたから、分かっていた。同コーチは大学時代の野球部名簿を広げ、指導者になった元同僚たちに電話を入れた。5年という短期間で『結果』を出さなければならないのに、地元の有望中学生の勧誘はできない。他県から球児を集めるしか方法がなかったのである。
 同校は数年後に初出場を果たしたが、「越境入学者ばかり」と、非難も殺到した。2007年の『特待生問題』以来、他県からの越境入学生に対する見方も厳しくなっている。しかし、初年度に無我夢中で広げた“個人スカウト網”の暴走を止めることはできなかった。「以後、他県の有望中学生は集めない」と言っても、彼らは納得しないだろう。中学生のクラブチーム指導者のなかには『甲子園出場校へのパイプ』をひけらかし、新入団者を集めている輩もいないわけではない…。
 また、かつては有望中学生を仲介すると『謝礼』が支払われていたなんて、噂も囁かれていた。前述の“自称教頭”の悪質例は、こうした裏金を見越しての行為だと思われる。
 「どの高校も自浄努力をし、誤解を招くような行為(不正)はしていません」(野球関係者)
 その言葉を信じたい。

 一般論として、教員免許を持っていれば、たとえ現場指導職を外されても、教諭として生き長らえる。しかし、『監督業』のみで学校に雇われた指導者は違う。「勝つことだけが学校教育ではない」と学校経営者は言うが、それは建前に過ぎない。『結果』が伴わなければ、解任は免れないのだ。
 甲子園中継は「絶好の学校宣伝の場」でもある。野球部の専用グラウンドを設け、打撃マシンなど高額な練習機を購入するのも、そのためだ。高校野球の監督とは、プロ野球以上に結果が問われる職業なのである。(スポーツライター・飯山満)

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