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オーソン・ウェルズの宇宙戦争は本当にパニックを引き起こしたのか?(4)

 震災時の放射能デマなどは記憶に新しいが、ソーシャルメディアなどを通じて偽の情報が流れ、多くの人々がパニックに陥ることは現代社会における日常の風景となった感すらある。また、デマによるメディアパニックが発生する度に決まって言及されるのは、約80年前に放送されたラジオドラマ「宇宙戦争」が実況中継風の演出で混乱を引き起こしたとされる事件だ。

 ニュース番組を模した登場人物の演技や音響効果があまりにも真に迫っていたため、多くの聴取者がパニックにおちいったと、翌日の新聞は様々な騒動をトップに掲載したばかりか、番組の脚本を書いて演出を務めたオーソン・ウェルズも会見を開き、謝罪を余儀なくされたのである。そして、プリンストン大学のキャントリル教授が1940年にメディアパニックを論じた著書『火星からの侵入』において番組聴取者を170万人、そのうち120万人がなんらかの騒動を起こしたと推計したことから、事件は半ば歴史的な事実として定着するに至った。

 ところが、近年の研究で新聞に報じられたような騒動の大半は裏付けを欠いていたり、あるいは全くことなる要因で発生したトラブルを番組と結びつけており、本当にパニックが発生したかどうかについては疑問が持たれるようになっていた。そして、決定的となったのはニューヨーク・タイムズ紙が報じた事例のほとんどが確認できないか、あるいは番組との関係があやふやで、たとえばパニック発作を起こした人々が担ぎ込まれたとされる病院の記録によると、事件当夜の急患は「身体的な疾病の数名のみ」とされる。

 加えて、当時の電話調査では番組聴取率がわずか2%に過ぎず、しかも「オーソン・ウェルズの番組を聴いていた」との回答が多数を占めていたことなどから、キャントリル教授の聴取者推計も過大と指摘された。

 結局、番組が引き起こしたというパニックは存在しておらず、事件は現代の神話か都市伝説に過ぎないというのが、ほぼ定説となりつつある。

 では、なぜ根拠の無いパニック伝説が生まれ、そして現在に至るまで語り継がれているのだろうか?

 都市伝説の生まれる過程そのものが、新たなミステリーとして立ち上がってきたのである。

(続く)

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