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コンピューターゲームの20世紀 第34回『ファミリースタジアム』

<かつてプロ野球が娯楽の中心だった時代の話>

 プロ野球がまだ光り輝いていた1986年に、ファミコン初の本格的野球ゲーム『ファミリースタジアム』が誕生した。本作以前にファミコンで発売されていた野球ゲームは1983年に発売された任天堂の『ベースボール』のみであり、国民的スポーツという大ヒット間違いなしのジャンルは、空白状態のまま放置されていたのである。また、唯一の野球ゲームであった任天堂の『ベースボール』は完成度が低く、チームによる差違はユニフォームの色のみで、1番バッターから9番バッターまでが同性能。当時の子供達(大人もだが)は想像力でゲームの足りない部分を補うしか方法がなかったのだ。

 そんな状況の中で発売された『ファミリースタジアム』は当然のごとく大ヒットを飛ばし、200万本以上を売り上げた。ヒットの要因は様々だが、当時コアなゲーマーから小学生にまで絶大な支持を得ていたナムコブランドから発売されたこと。そして、3900円という低価格であったこと。何よりも選手の成績がデータとして反映され、チームと選手の能力に差違があったことである。これは、当時とにかく画期的なことであり、試合中の感情の移入度もそれまでとは段違い。特に友達との対戦は大いに盛り上がり、人気チームの取り合いでケンカに発展するという光景もよく見られたものである。

 当時はプロ野球が打高投低の時代であり、しかもこの1986年はセ・パ両リーグにバース(ばあす)、落合(おちあい)という2年連続の三冠王が誕生した年でもある。当然、ゲーム内でもこれらは反映されており、両者は凄まじい能力を持っている。後に発売された『燃えプロ』のように、当たればホームランというわけにはいかないものの、高確率でスタンドへボールを運ぶ能力を持っていたのである。また、当時全盛期であった北別府(きたへふ)や、円熟期にあった東尾(ひかしお)の変化球のキレは冴えわたり、江川(えがわ)のカーブは直角に曲がっていると感じられるほど。さらに、山田(やまだ)や角(すみ)などのサイド・アンダースロー系ピッチャーのフォームまでもが再現されているのは驚きであった。

 そして、今となっては考えられない話だが、当時はパリーグの人気が極端に低く、本作でもセリーグが6球団存在しているのに対し、パリーグは3球団しか存在しない。当時の阪急・近鉄・南海はレイルウェイズという関西鉄道連合チームに、ロッテ・日本ハムはフーズフーズという関東食品連合チームに置き換えられているのだ。連合チームだけあって両チームとも強豪であり、特にレイルウェイズは代打にいたるまで強打者が並び、優勝候補筆頭の実力をもっていた。

 本作の大ヒットを受けて、以降ファミコンでは野球ゲームが猛烈な勢いで量産されていく。しかし、それらの多くは雑な作りが目立つ駄作であり、粗製濫造の野球ゲームが氾濫するほど『ファミスタ』の完成度の高さが際だっていった。こうして、毎年1回発売される『ファミスタ』は野球ゲームのスタンダードとなり、コナミの『パワプロ』に覇権を奪われるまで、ファミスタ1強時代は続いたのである。(須藤浩章)

DATA
発売日…1986年
メーカー…ナムコ
ハード…ファミコン
1986 NANCO LTD. ALL RIGHTS RESERVED

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