時期的にやや微妙ではあるものの、今回は「不謹慎」をテーマに話を進めていきたい。避難を余儀なくされている方には不愉快に感じられるかもしれないが、何とぞご容赦願いたい。その不謹慎なゲームとは1988年にデータイーストから発売された『チェルノブ -戦う人間発電所-』である。ソ連のチェルノブイリ原発事故から1年半後に発売された本作は、当然ながら各所からかなりの非難を受けた。その際にデータイーストが発した「チェルノブはカルノフの従兄弟であり、チェルノブイリ原発とは関係ない」という言い訳は、ゲーム史の中でも屈指の迷言である。このデータイーストというメーカーは、窮地に陥ると相手を煙に巻く様な言動をするのが恒例なようで、同社の『ファイターズヒストリー』が『スト2』の模倣であるとカプコンに訴えられた際にも、「対戦格闘ゲームの元祖は我が社の『対戦空手道』である」とのコメントを残している。
お馬鹿なコメントが功を奏したかどうかは分からないが、『チェルノブ』はとにかく無事発売され、今日のゲーム史に名を残している。実際に本作はその奇怪な外見からは想像がつかないが、良好な操作性を持つアクションシューティングであり、アクションシューティングとしては、傑作と言っても差し支えないほどのゲームである。
前進することを宿命づけられたチェルノブ(自機)は一切後退することが出来ない。レバーを後ろに入れてもチェルノブはその場で足踏みをするだけなのだ。それを補うように搭載されているのが振り向きボタンである。1レバー3ボタンでジャンプ・ショット・振り向きを駆使して進むのは初めのうちは難しいが、慣れてくれば難易度自体はそう高くはない。特にチェルノブの動きが非常にスムーズで、全くストレスを感じさせない点は素晴らしい。また、出現する敵は皆異様なデザインであるが、よく考えられた配置で攻略意欲を刺激してくれる。円高ドル安・赤城山ミサイルといったバカバカしいネーミングのアイテムもイカしている。未経験の方は是非ともプレイして欲しいものである。
確かにまだ完全に原発が終息していないこの時期に『チェルノブ』を話題にするのは不謹慎かもしれない。しかし、事故に関する話題を全て禁忌にしてしまい、目をそらすことはあまりに後ろ向きではないだろうか。人間が前を向いて歩き始めるには、笑うことが何よりの特効薬であるはず。チェルノブとデータイーストのお馬鹿さを笑い、そのエネルギーで事故に立ち向かっていければ決して不謹慎などということはないはずだろう。(須藤浩章)
DATA
発売日…1988年
メーカー…データイースト
ハード…アーケード
(C)1988 DATA EAST CORPORATION