さて、弊社には関連した施設が複数あり、その内のある物件の裏には一軒の空き家がある。およそ築40年ほど立っていると思われる、少々古いがごく普通の民家である。空き家になって久しいようで、固く閉められた雨戸の塗装は剥げ、庭の草木は伸び放題となっている。
しかし、この空き家に気づいた人は必ずこう言う。「え? この家、空き家だったの?」と。いわく、裏の家は気配と共にそこそこ生活感もあるため、静かなだけでてっきり誰かが住んでいるものと思っていた、というのだ。そして、同時にこうも告げる。
「お婆さんが一人で住んでいると思っていた」と。
なぜそう思ったかと言うと、この建物と件の空き家との間には塀を挟んで通路上になった隙間が存在する。この施設の台所に小窓がついており、そこから空き家との隙間が見えるのだが、夜にそこを通り過ぎる小柄な人影を何度か目撃しているからだという。同様に、トイレの小窓からも朝四時頃に目撃してごく自然にすっと通り過ぎていくために、「きっと朝が早いお婆さんが住んでいるのだろう」と考えていたという。しかし、朝早くならともかく夜遅くにタイミング良く通るのは少しおかしい…そう思っていた所で、同じ事務所に勤めている者から裏の家が空き家である事を知って驚いたのだという。他にも、「夜中にトイレを使った所、裏の家から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた」との話もあった。
空き家のような閉ざされた大きな空間には、何かが住み着く事が多いという。それが持ち主ではない人間なのか、はたまた人ならざる者なのかは解らないが。
(山口敏太郎事務所)