たとえば、国際線の空港でキャッチしたYOU(通行人)についていく『YOUは何しに日本へ?』。昼の日中に母にまつわる質問をして、再会するその瞬間までついていく『母ちゃんに逢いたい!』。そして、終電をなくした人のタクシー代を支払う代わりに、家にあがりこむ『家、ついて行ってイイですか?』。
いずれも、質問を浴びせるのは番組スタッフで、応じるのは素人。普段はテレビに出ない立場の人間だけで、VTRが構成されているのだ。それをモニタリングするときにようやく、タレントが登場する。つまり、完全無欠の素人ドキュメンタリーだ。
しかし、この素人、過去や心情に踏みこまれたら、予想を超えるポテンシャルを発揮する。気づけば、地上波のゴールデンタイムに値する撮れ高になっており、笑いと感動の末、落涙につなげる。研磨された“石コロ”は最終的にはしっかり、ダイヤのような輝きを放つのだ。
『家、ついて行ってイイですか?』は、そんなテレ東の魂胆がふんだんに詰まった番組だ。冒頭は、そのあとに出演する素人が利用する駅と終電の時刻からスタート。「タクシー代を出すので家について行ってイイですか?」と声をかける番組スタッフは、腕章をつけており、身分証明書を提示するというテロップが、そのたびに流れる。詐欺や悪質な勧誘を防止するためだろう。
“家を見せる”ことを許可した素人が徒歩圏内に住んでいる場合は、コンビニで好きなものを買っていいという条件に切り替わる。買った食品の賞味期限や領収書の日付から、撮影から放映までに2〜3か月もかかっていることが判明することも珍しくない。映像の内容はいかに審議され、吟味されているかがわかる瞬間だ。そしてそのワケは、その後に登場する人間模様の凄まじさを見ればわかることになる。大別すると、こんな感じだ。
倒産や博打で借金を背負った。親の顔を知らずに育った。大病を患った。イジメに遭った。暴行された。実子と会えない。幼児が障がい者。アイドルに数千万円を費やした。婚約者が自殺をした。ごみ屋敷に住んでいる。元ひきこもり。子どもが自殺した。
ほかにも、会社経営の男性が、全身刺青の元ヤクザの組長だった。出会い系にハマっているOLが、家では実父と祖母のW介護に追われていた。クラブ大好きのド派手女子が、進行性ガンと闘っている。美女の彼氏は女性で、レズビアンカップルの同棲生活に潜入。前職がセクシー女優。現役のグラビアタレントや地下アイドルも出演している。さらに、現役芸人のキック(『エンタの神様』出演時はKICK)、アントニオ小猪木も、素人として声をかけられ、自宅を公開している。逆に、カラフルな全身に超巨漢というインパクトで声をかけられた独身女性が、実は権威ある脳外科医でファッションデザイナーでもあり、同番組を観ていた芸能関係者がスカウトして、“Dr.まあや”としてタレントデビューするという奇跡も起きている。
ちなみに、モニタリングルームはテレ東のスタジオではなく、街で声をかけて了承してくれた一般人の部屋。ワンルームに司会のビビる大木、矢作兼(おぎやはぎ)、鷲見玲奈アナとゲストが上がり、家主がコメンテーターとして堂々と出演するあたりもカオス。徹頭徹尾、テレ東。チープと感動を引き替えにできるあたりは、さすがである。
(伊藤雅奈子)