そのため、初対面でそれほど仲良くなったわけではないことが明らかだった。こうした場合、私は連絡を取らず、再びこの嬢と話をする機会があるのを待つものだ。しかし、このY嬢には、なぜか気になったので、珍しく自分からメールをしたのだ。
<覚えていますか? 帰り際にメールアドレスを聞いた、渋井です。今度は、いつごろ出勤していますか?>
すると、すぐに返信があった。
<覚えていますよ。今度は水曜日と、木曜日にいると思います。ぜひ、一緒に飲みましょう>
水曜日ということは、そのメールを送った翌日だった。そのため、水曜日になってお店に行ってみると、すごく混雑をしていて、待ち時間もあったために、この日は店に行かないことにした。その旨を伝えると、
<残念です。明日もいますので、待っています>
とのメールが返ってきた。そして、翌日、夜の遅い時間に行ってみることにした。しかし、この日は、早く上がってしまったようで、この日も会えなかった。
<なかなか会えないですね。ごめんないさい。でも会いたいし、話をしたいです>
<なかなか会えないのもよいものです。まるで、遠距離恋愛中の恋人みたいじゃないですか>
<そう言ってもらえると、うれしいです>
といったメールのやりとりが続いていた。そして、その翌週になってお店に行くと、ようやく会うことができた。初対面ではほとんど話をしていないのに、メールで会話をしていたせいもあり、久しぶりに会った恋人のような気分になった。記憶していた顔よりも、実際の顔のほうが可愛くみえたことも影響しているのだろう。
話をしていると、都心から家が遠いために、上がりの時間が早いこと、大学生であること、授業料も自分で支払っていること、趣味も楽しみたいので、こうしたキャバクラで効率のよい仕事をしているのだという。
こうした話を聞くと、苦学生であり、もしかすると、家の事情が想像できた。私が指名する嬢は、母子家庭の子であることが多いが、やはり、Y嬢も母子家庭であることが判明した。そのとき、ちょっとしたがっかり感があったのと同時に、安堵感もあった。やっぱり、私は母子家庭の嬢が気になってしまうのか、と。私はそういうものなんだ、と改めて感じた夜だった。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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