「文学散歩」という言葉を聞いたことがあるだろうか。文豪ゆかりの地や、小説の舞台となった場所を歩く散策のことだ。小説の中に記された風情を発見することもあり、根強い人気がある。
漱石ゆかりの地を歩いてみた。
お茶の水小学校前の錦華通りを渡った。皇居のお堀ばたに出て、靖国神社の鳥居の前を過ぎた。しばらく進むと、勾配が急な神楽坂があった。神楽坂にはかつて寄席が5つ並んでおり、演芸が盛んだった。漱石も、足繁く通ったという。また、漱石の行きつけの牛鍋屋なども開店していたが、現在は残っていない。
神楽坂付近には、東京理科大学(旧・東京物理学校)の校舎もある。漱石は3代目校長と懇意で『吾輩は猫である』のモデルともいわれている。また、『坊っちゃん』は東京物理学校出身という設定だ。
神楽坂から早稲田へ向かう途中に、漱石公園があった。漱石公園は漱石晩年の住居があった場所で、入り口に漱石の胸像が建てられている。なお、園内に「猫塚」と呼ばれる、石を積み上げた塚があるが、「吾輩は猫である」とは直接の関係はない。「猫塚」は、漱石没後、遺族が飼っていた猫や、犬や、小鳥を供養するために造られた。
JRお茶の水駅から、神楽坂や漱石公園とは逆の方へ向かうと、東京ドームがある小石川や、赤門(旧・加賀屋敷御守殿門)で有名な東大本郷校舎などがある一帯に出る。『こころ』に登場する「先生」は小石川の下宿に「友人K」といっしょに住んでいたという設定になっている。東大を超えた先にある根津神社近くには、「夏目漱石旧居跡」の碑も建っている。この付近は、『こころ』をはじめ漱石の作品に多く登場する。
今回取り上げた漱石のほかにも、ゆかりの地が史跡として残されている作家や、実在の場所を舞台に書かれた小説は多い。お気に入りの作家の足跡を探して、散策してみてはいかが。(竹内みちまろ)