まるでワックスを塗りこまれたように、栗色の馬体は光沢を放っている。これぞ、一変。スズカフェニックスが文句なしの状態に仕上がった。
「前走は馬インフルエンザ騒動の影響で調整が狂いましたから。しかも、中山のひどい馬場ではあの結果も仕方ありません」橋田師がそう振り返ったのは9着に終わったスプリンターズSだ。
帰厩日が2週間も遅れてしまい、加えて予定していた毎日王冠から1週早めてスプリンターズSに出走した。
不良馬場の激戦。誤算が重なった余波は、レース後まで残った。「疲れが出てしまいました。立ち直るまで時間がかかりましたね」しかし、そこはGIで数々の修羅場をくぐってきた橋田厩舎だ。丹念な疲労回復と乗り込みを続け、「先週あたりからようやく復調してきました」と手応えをつかんでいる。
その感触はケイコの動きからも伝わってくる。7日の1週前追い切りは栗東坂路で800mを50秒3。もともと調教駆けするタイプとはいえ、時計の掛かる馬場状態のなか超抜の走りだった。
春は1200mの高松宮記念を快勝したが、本来、ベストは1600m。特に3角の下りから一気にスパートできる京都の外回りは合っている。
しかも、父のサンデーサイレンスは目下、このマイルCSを4連勝中。偉大な父から受け継いだ極上の切れ味を発揮するにはこの上ない条件といっていい。
「今年の秋はここを目標にしてきました。前回より体が増えていいムードになっているし、マイルもベスト。今度はこの馬の力を見せたい」と橋田師は力強く言い切った。
鞍上は武豊。数々のGIを勝ちまくり、先日も天皇賞秋をメイショウサムソンで勝ったばかり。しかしマイルCSだけはまだ勝っていない。今年こそ嫌なジンクスを打ち破る。パートナーはその準備を整えた。
【最終追いVTR】鞍上には武豊騎手。前半から行きたがる馬をなだめて道中はジッと我慢。ラスト1Fで鞍上が手綱を緩めると、自らハミを取ってシャープに伸びた。最後は手綱を抑える余裕がありながら51秒4の好時計をマークした。