年長のプロ野球解説者がこう言う。
「球団の責任も大きいが、最終的には選手個人の心構えだと思う。小さいときから野球一筋で、プロ野球に指名されたのだからエリートですよ。知らず知らずのうちに、奢りが出たのだと思います」
スカウトの多くは試合ではなく、練習を見るという。試合では守備機会や打席数が少なくなり、力量を見極められないためとされているが、ひょっとしたら、練習態度を見て、向上心があるか否か、また、性格的なものもチェックしているかもしれない。
「80年代の黄金期の西武を支えた根本陸夫氏(故人)は、女性のいる店や高級志向の飲食店に行くときはとくに注意しろと選手たちを指導していました。危ない目に遭いそうになった選手を水面下で救ったことも何度かあったようです」(前出・プロ野球解説者)
一般企業が社員を教育するように、プロ野球各球団も選手を指導している。しかし、“社員教育”を重要視する意識は一般企業よりも稀薄だと言わざるを得ない。NPBも新人講習会の内容を見直すべきである。
「プロ野球OBのなかには、一人で電車に乗れないと自虐的に告白している人もいます。電子マネーが浸透し、ますます分からなくなったと。パソコンができないと嘆いても、実際に覚えようとしない人が多く…」(ベテラン記者)
先の根本イズムだが、こんなことがあった。福岡ソフトバンクホークスを日本一に導いた工藤公康監督が横浜ベイスターズに移籍した直後だった。工藤監督はテレビ、新聞、雑誌からの個別取材の依頼を全てこなした。一般論として、オフシーズンの取材申し込みについては、「普段のお付き合いのある一部メディアだけ」に制限するプロ野球選手も多い。シーズン中の交流が少ない雑誌社からの取材に対し、とくに敬遠する声も聞かれる。しかし、当時の工藤監督は「野球を盛り上げてくれる企画なら」と二つ返事で雑誌社からの取材も快諾し、インタビュー中のコーヒー代まで自分で払ってみせた。
「いや、コーヒー代くらいで借りを作っちゃったら、後々たいへんだから(笑)」
その工藤監督の言葉に好感が持てた。
夜の繁華街に出れば、ファンと称するその筋の人が近づいてきて、食事をごちそうしようとする。そのゴチになった食事代が後々、とんでもない利息を付け、自分の首を苦しめる結果になるのだ。
相手を不快にさせない上手な断り方。それが、根本氏がライオンズの教え子たちに伝えた処世術でもある。
西武ライオンズのOBがこう言う。
「工藤さんはいい意味で『所詮は野球選手』と口にします。要するに、プロ野球界で活躍しても社会的に偉くなったわけではない。チヤホヤしてくれるのはグラウンドの中だけだ、と」
スポーツ教育の本来の目的は人間形成であり、その根本は礼節だ。球界から疑惑を根絶する方法があるとしたら、学生スポーツの指導者ともスクラムを組んで教育の在り方を見直すことではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)