「どうなってるの?」
「いや、今は言えないんだけど、決まったって聞きましたよ」
そんな会話が交わされていた。ウワサの出元は、阪神。鳥谷とラインなどですぐに連絡の取れる選手はたくさんいる。また、表面上は「引退勧告」という冷酷な切り捨てをされたが、ケンカ別れしたわけではない。新天地が決まったのであれば、阪神首脳陣にも報告の電話は入れるはずだ。
「12球団全てに言えることですが、まだ公式行事が残っています。契約更改、新人選手のお披露目、トレード、新外国人選手の獲得など。そういったものが全て終わったからの発表となりそうです」(球界関係者)
他球団が鳥谷に“死に場所”を与えてやろうと思った理由はいくつかある。長く阪神を支えてきた功績もそうだが、どの球団も経験豊富なベテランを「チームの精神的支柱」と位置づけている。
「2019年のセ・リーグは大型連敗と連勝を繰り返す傾向が見られました。不思議なもので、選手たちは連敗している時よりも連勝している時の方がプレッシャーを感じています」(プロ野球解説者)
どういう意味かと言うと、練習中にマウンドに上るピッチャーは、「自分で流れを止めてしまったら…」と考え、バッターも「自分が攻撃の勢いを止めてしまったら」とマイナス思考に陥る。そういう時、絶妙なタイミングで声を掛けられるのが、ベテランなのだ。
ならば、阪神も鳥谷を必要としているのではないか? しかし、2019年のシーズン中、鳥谷は自分のことで精一杯だった。代打として結果を残せず、試合前の守備練習では首脳陣からファーストに入るよう指示された。
「ショート一本で勝負する」と申し合わせができていたのに、だ。矢野燿大監督は「出場機会が増えるのなら…」と思い、直接話し合ってから、ファーストの練習をさせた。鳥谷も矢野監督の思いが分かっていたから、不慣れな一塁の守備練習をこなした。
しかし、そんな必死さが悲壮感となって広まってしまったのだ。
「対照的なのが、中日です。中日の秋季キャンプを見ていたら、チームを引っ張っていこうと奮闘していたのは、25歳の主将・高橋周平でした。松坂大輔という、経験豊富なベテランを外部から補強した際、巧く行った部分と、周囲が遠慮し、ギクシャクしてしまった部分の両方が見られました。中日は若い高橋に仕切らせることで若返りを加速させ、チームをゼロから作り替えようとしているのでしょう」(前出・同)
松坂に対し、中日選手たちは自分から話し掛けることができなかったようだ。鳥谷が新天地で成功できるかどうか、それは自分から若い選手に話し掛け、気さくなイメージを作らなければならない。阪神での16年間を振り返ると、鳥谷は寡黙なイメージが強かった。“イメチェン”を図るのは並大抵なことではない。鳥谷の試練は新しいユニフォームに袖を通してから始まるようだ。(スポーツライター・飯山満)