これだから勝負事は不思議だ。
この春、レッドディザイアでぎりぎりまでブエナビスタを追い詰めながら、松永幹厩舎は桜花賞もオークスも2着に惜敗した。開業3年目、待望の重賞初制覇は秋に持ち越しか。そんなムードをあっさり吹き払ったのは、意外な伏兵ダンスアジョイだった。
前走の小倉記念は苦手の右回りに加えて休養明け。16番人気という低評価が示すように、陣営も苦戦を覚悟していた。しかし直線で内からスイスイと他馬を抜き去ると、そのまま先頭でゴールへ…ファンだけでなく、調教師自身もシンジラレナ〜イVだった。
騎手時代、夏は北海道で騎乗していた松永幹調教師にとって、小倉は唯一重賞未勝利の地。そこで調教師初の喜びを味わうのだから面白い。
半信半疑だった前走と違い、今回は自信をみなぎらせている。直線の長い左回りは最も得意な条件。新潟の2000メートルは最高の舞台設定だ。
「小倉記念の前から本当の狙いはここ。手前の替え方の関係で左回りは合うし、末脚が生きる長い直線もいい」
休養明けを叩いた上積みも大きく、1週前にはCWコースで6F82秒0。ラスト1Fを11秒5とこの馬らしい豪快な伸びを見せた。
「特にいいデキだと思わなかった前走に比べると今回は元気いっぱい。年齢などまったく感じさせない」。すでに8歳だが、馬体に張りがあり、動きも実に若々しい。
ダンスアジョイの小倉記念Vに続き、2週後の北九州記念もサンダルフォンで勝った。次に狙うのはこの夏3つめのGIII、そしてサマー2000シリーズの制覇だ。
「チャンスは十分あると思う。前走を勝ってここに出走できるのが何よりいいね。あとは良馬場を願うのみ」
師はそう言うと、端正な横顔に笑みを浮かべた。勢いのある厩舎に乗るのは、勝負の鉄則。これまでの苦労が長かった分、爆発はそう簡単に終わらない。