23日のヤクルト戦、同点で迎えた9回表、二死ながら走者を一、二塁に置いたピンチで、原辰徳監督(61)がコールしたのは、中川皓太(25)だった。四球でピンチを広げたものの、次打者をライトフライに抑えてみせた。ピンチをゼロでしのぎ、巨人ベンチが息を吹き返した。サヨナラ勝ちで連敗脱出である。
「イニングの(9回表の)最初からではなく、途中からの登板は、投手にとって精神的な負担が大きい。中川はイニングの頭からはもちろん、こうした途中からでも投げられるので、首脳陣も使い勝手の良いピッチャーだと思っているはず」(プロ野球解説者)
9回表の守備に入るのと同時に、原監督は「ピッチャー、マシソン」を告げた。おそらく、9回表はマシソン1人でゼロに抑えてほしかったはずだ。そのマシソンが走者を2人出してしまい、慌てて中川に準備をさせた。
「中川はブルペンで10球くらい投げれば、肩が出来上がるんです」
チーム関係者がそう言う。指揮官にとって、短時間で登板準備のできるピッチャーほど有り難いものはない。また、中川は今季4年目だが、過去3年は目立った成績は収めていない。昨季は30試合に投げたが、防御率は5点台だ。そんな伸び悩んでいた左腕がブレイクしたきっかけは2つ。
1つは、腕を振る角度を少し下げたこと。「遊び半分でやってみたら、しっくり行った」と各メディアのインタビューで話していたが、もう1つは客観的な評価を聞くことができたからではないだろうか。
先のチーム関係者がこう続ける。
「丸が巨人に移籍してきて、中川に伝えたんです。『物凄く打ちにくいスライダーを投げている』と。それが自信にもなり、スライダーを磨くきっかけにもなったようです」
去年までの中川のスライダーは「曲がり幅の大きさ」で勝負していた。丸以外の広島選手も中川のスライダーに一目を置いていたそうだ。しかし、その丸の言葉を単純に自信に変えたのではない。中川は18−19年オフ、大学の先輩でもある菅野智之と自主トレを行い、「変化球」に対する意識を変えた。
「曲がり幅の小さい方が相手バッターは打ちにくい」
菅野から助言を受けた。曲がり幅が小さければ、対戦バッターは真っ直ぐと見誤ってしまう。打ち損じを誘うには、小さいほうが良い。中川はシーズン途中からクローザーを任された。従来のクローザー像は、圧倒的な球速を持つ豪腕か、空振りの取れる鋭角な変化球を持っている。中川はそのどちらでもない。試合展開によっては、中継ぎに回ることもあれば、1イニング以上を投げる“イニングまたぎ”も託されている。
昨今、こんな言葉で中川が評されている。「ポリバレント・クローザー」。便利屋、どんな場面でも任せられるという意味だそうだ。原巨人は救援陣に不安を抱えたまま、ペナントレースに突入した。救援投手の頭数が足らない状況が中川のような新しいタイプのクローザーを生み出したとも言えなくはない。しかし、「ピッチャー、中川」がコールされると、スタンドの巨人ファンが盛り上がるようになってきた。ファンが守護神として認めたのだろう。
(スポーツライター・飯山満)