作品の話をする前に、サブタイトルの「Who are you?」について、ちょっと説明したい。実はこのサブタイ、放映当時は重要な意味を持っていた。当時は北京原人を誰が演じるかが伏せられており、映画公開までお楽しみとなっていたからだ。ちなみに、公開前に北京原人役の1人である、俳優の本田博太郎がトーク番組中に暴露してしまったことでも話題に。さらにどうでもいい情報かもしれないが、子供の北京原人役は、現在は、アニメ『黒子のバスケ』の黒子テツヤ役などで知られる、声優の小野賢章が演じている。
あらすじをざっくり解説すると、第二次大戦中に密かに中国から日本軍が回収した北京原人の化石のDNA使って、現在の日本でクローンを生み出すというもの。そこに、情報キャッチした、中国やアメリカも介入し、各国の思惑が交錯する中、緒形直人が演じる佐倉竜彦たち研究員が、どう北京原人に向き合うかという作品になっている。
そもそもこの作品、まじめに見ることはおススメできない。普通に見ようとすると高い確率で寝てしまうからだ。実際に筆者も過去に2回ほど途中で寝オチしている。しかし、「北京原人」という謎の多いテーマに挑んだ作品としては注目するべき点もある。実は、現在の人類を含むヒト属の研究というのは、恐竜以上に進んでいない。化石の発見数がとにかく少ないからだ。現在、北京原人が属する種と言われているホモ・エレクトスの化石数は、ビル・ブライソン著の『人類が知っていることすべての短い歴史』の言葉を借りれば世界中の化石をかき集めても、「スクールバス1台分(の人数に)に満たない」そうだ。それっぽい設定を作るのにも、化石研究なので情報が豊富な恐竜を扱った『ジュラシックパーク』よりもはるかに難しいのだ。
また、当時は、現在主流の、アフリカで20万年ほど前に旧人から進化した新人が、約6万年前から世界中に拡散した「出アフリカ説」の他に、原人が180万年ほど前にアフリカから出て、ユーラシア各地で進化したという「多地域進化説」というものそれなりの支持を受けていた。映画では「多地域進化説」に習って、北京原人がモンゴロイドの進化に関係していたという確信の元、ご先祖様の生態を知るために、再生実験が行われる。しかし、現在では、DNA研究などでこの今の人類と北京原人は全く関係ない種という結果がでている。というわけで、現在の説ではこの映画の目的自体が無意味になってしまうのだが、一応、今後作られることはないであろう意欲作とは思う。なので、どうしても最後まで観賞したいという人には、寝オチしないよう、無理にストーリーを追わずに、「笑い所」や「ツッコミ所」を探すことをオススメする。いくつか例をあげるので参考にしてほしい。
まず序盤だが、研究所の責任者である、大曽根を演じる丹波哲郎のヅラがものすごく気になる。前髪の縮れ具合が不自然すぎる。それに加え、佐藤蛾次郎のアフロ頭(こっちは自毛)まで登場して、北京原人の計画とはまた別の、マンモス再生実験の話までしだすので、色々気になりすぎて話が整理できなくなってくる。しかし、それで正しい。この設定は聞いてもあまり意味はないので。序盤はとにかく丹波哲郎に注目して欲しい。ノリノリで演じているので、見所満載でかなり笑えるキャラになっている。特に、北京原人の再生実験がひとまず成功して「いよいよ人間が神になる! 神になるぞー!」と叫ぶシーンでは、よく創作物で出てくる悪人ではないが、どうしようもない学者像というのをよく表現している。
肝心の北京原人再生計画なのだが、宇宙に行くというよくわからない方法で行う。どうやら「時間変異プロジェクト」という謎プランで、北京原人の成長を早める為に宇宙に行く必要があるらしい。ここでは無重力のシーンに注目しよう。ワイヤーで人を吊るしているのだろうが、結構それっぽくなっている。ちなみに、ここで国産スペースシャトルとして出てくる「ホープ」は資金難で計画倒れとなったが、実際に航空宇宙技術研究所(現在はJAXA)で計画のあった機体だ。もっとも、有人ではなく無人を想定して計画をされていたが。
さて、この映画一番の注目がこの宇宙での北京原人再生成功の後、事故で沖縄の離島に原人たちを乗せたベビーシャトルが落下した時のシーンだ。ここで緒形直人扮する佐倉竜彦が、同じ生き物であることを見せて原人を保護するために、なぜかパンツ一丁になる。理由は落ち着かせるためらしい。「いや、お前が落ち着けよ」とツッコミたくなるが、この後、「私も」と助手の竹井桃子役の片岡礼子まで上半身裸になる。そのおかげで、オッパイ丸見えの状態シーンがしばらく続くので、ここで男性は凝視して眠気を覚まそう。
この辺りを過ぎると、思わずツッコミをしたくなるような、気になる展開が満載で、逆に最後まで観賞したくなってくることだろう。まず男性・女性・子供の3人の原人に竹井が「タカシ、ハナコ、ケンジ」とそれぞれ適当な名前をつける。もっとちゃんと考えた方がいいのではと思っていると、今度はタカシに竹井がレイプされそうになる。この後の大曽根のセリフに注目だ。「なんで逃げてきた! もし子供ができれば彼らが我々の祖先だということが証明できるんだぞ!」とトンデモないセリフを吐く。いくらなんでもひどすぎる。
この後もギャグでやっているとしか思えない展開が続く。研究所が、実業団の陸上競技大会に北京原人のタカシ・ハナコを出場させるという暴挙に出るのだ。もう、ちょっとどころではないおかしさだ。笑いどころとしてはかなりの破壊力がある。さらにここで、中国政府が絡んできて北京原人は中国のものと主張し、タカシとケンジをさらってしまう。その途中、中華街で引田天功のマジックショーがあり、北京原人消失イリュージョンをやるなど、意味不明な展開が続く。
いろいろすったもんだの末、舞台は中国に移る。撮影スタッフが万里の長城を撮りたかっただけなのではという疑問もあるが、ここで何を思ったのか、ケンジが叫んで、序盤の話で出たシベリアの再生マンモスが中国に向けて激走する。テレパシー的な何かに反応したのか、マンモスが逃げ出した理由は謎だ。そもそもシベリアからどう中国まで行くのか、そんな疑問の説明もある訳なく、最後はそのマンモスと一緒に北京原人たちは、化石が発見された山に帰ってしまう。しかも佐倉の「あそこには本当の自由があるんだ」という独断で。
散々大規模に意味のわからない展開を続けてこんなオチである。ストーリーは追わない方がいい。しかし、今だからこそ、この映画は地上波で放送すべきだと主張したい。あまりのツッコミ所の多さに、Twitterやネット掲示板で行われる、複数参加の番組実況ならばかなり盛り上がるはずだ。
(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)