個人的に気になったのは、DeNAベイスターズの出方だ。DeNAは旧ベイスターズ時代の『負の遺産』を一掃しようとした。10月3日、育成選手を含む大量12人に『戦力外』を通告したが、野手1人、投手11人。高田繁GMは各メディアに
「ファームでの登板機会はドラフト上位の若手や1軍からの再調整組がどうしても優先されるからね。これだけ(投手の人数が)多いと、調子が良くても投げさせてもらえないという選手が出てくる」
と“苦渋の決断”だった旨を伝えていた。
14年シーズン、DeNAは育成を含め、42人の投手を抱えていた。そのアンバランスな選手構成が育成に影響を与えていたというわけだが、チームの投手力はまだ優勝争いをするレベルには達していない。今秋ドラフト会議で指名した7人中4人が投手だった。1位・山崎康晃(亜大)、2位・石田健大(法大)、社会人・福地元春(三菱日立パワーシステムズ)は即戦力と位置づけられて取り、とくに左腕・石田には大きな期待が寄せられている。
「DeNAは慢性的な左腕不足に悩まされています。先発ローテーションは中盤戦以降、全て右投手。救援陣も林と大原がフル回転しており、いつパンクしてもおかしくない状態」
そう指摘するメディアも少なくなかった。
一部報道によれば、現地入りした高田GMは、前オリックス・東野峻(28)にオファーを出したという。
旧ベイスターズが投手を大量に抱えていた理由は戦力として計算の立つピッチャーが少ないからで、『自前で育てる覚悟』もあったはず。左腕不足は解消されていないだけに、実績のある左腕・八木智哉にも注目が集まった。
八木は『打者4人』と対戦し、三振1、投ゴロ1、遊ゴロ1、遊飛1。ストレート中心の投球で“格の違い”を見せつけた。
マウンドを下り、控室に向かう途中で報道陣の囲み取材に応じてくれた。
−−自身のピッチングを振り返って?
「自分の持ち味を生かせるように、(マウンドに上がったら)変に緊張しちゃうんじゃないかと思ったけど、良い緊張感を保てて、実際の試合と同じ感覚で投げられた…。やるべきことはやった」
八木は「疲れた」「やった」と叫び、息を切らせ、その場でいったんしゃがみ込んでしまった。呼吸を整えるまでに約1分。笑みを浮かべながら立ち上がり、大粒の汗をぬぐった。−−自身の投球で、とくにアピールできたところは?
「スライダーと真っ直ぐ。左バッター、右バッター、両方に良い感じで低めに集められたし、ちょっと浮いた球もあったけど、悪くなかったと思う。気持ちで投げた」
今後は「他球団からのオファーを待って」とも話していたが、手応えは感じていたようだった。
しかし、スタンドのファンをどよめかせた左腕がもう1人した。DeNAから戦力外となった陳冠宇(24)である。最速145キロ。同日、145キロをマークしたのはこの陳と前ソフトバンクの江尻慎太郎の2人だけだ。DeNAは藤井秀悟(37)、真下貴之(23)の両左腕も解雇したが、2人とも持ち味を発揮し、ネット裏の他球団編成は彼らの投球に表情を変えていた。
「使えるヤツ、いっぱいいるじゃん!」
トライアウトは12球団が立ち回りで担当となり、ブルペン捕手やトレーナー、フロント職員を派遣する。彼らは次年度も契約を交わす現役投手のボールを捕ってきた。その裏方が「使える」とこぼしていたのだから、これ以上心強いエールはないだろう。
今秋のドラフト会議は即戦力系の投手が少ないとされ、少人数の指名で切り上げた球団も少なくない。オファーを受ける選手は例年以上に多いのではないだろうか。(スポーツライター・美山和也)