建設中に骨や遺跡などが出てくることがよくある。しかし、たいがいは面倒なので、その場に埋めてしまうという。骨などは重機ですりつぶし、土に混ぜ込んでしまうし、遺跡もぐちゃぐちゃにして完全に跡形をなくし、隠蔽することが多いというのだ。
「おい、それは国家的な遺産の喪失だろう」
私の問いかけにYさんはさらりと答えた。
「工期が伸びて、自分がリストラの対象になる方が怖いよ」
ある意味、もっともである。やはり、文化より自分の家族の生活を取るのは仕方ないことであろう。
ある時、Yさんは都内の古い御屋敷を解体し、地盤を改良した上で、おしゃれなマンションを建設することになった。
「この現場は最初の2週間が勝負だな」
工期が短く、予算もない現場でYさんはかなり焦りながらこの現場に取り組んでいた。
ある日、古井戸が発掘された。古井戸はかなり昔に封印されたようで、漆喰(しっくい)のようなもので口がふさがっているように見えた。
「くそ〜、古御屋敷だから何か出るとは思ってたものの、やられた」
Yさんは頭を抱えた。古井戸の場合、昔の骨董品が出土することが多い。この事実を地元の教育委員会にかぎつけられたら、調査のために工事がさらに遅れるのは間違いない。
「よし、つぶせ、俺が許可する。やるんだ」
Yさんは焦って古井戸を解体させた。すると中から骨がでてきた。しかも湿っていたためか、頭髪も一部残っている。
「まずいな、なんかたたりがあるんじゃない」
作業員たちは、頭髪のついた人骨の前で、水を打ったように黙り込んだ。
Yさんは、悪いこととは知りつつも、その骨をくだき、残土に混ぜて処分するよう指示した。
「何、みんなシーンとしてるんだ。早く作業に戻るんだ」
その日以来、奇妙なことが続いた。
クレーンと職員の作業をつなぐ無線に奇妙な声が入るのだ。
「つぶさないで、つぶさないで」
「お願い、つぶさないで」
一方、Yさんは毎夜毎夜、大量の土砂に押しつぶされる夢にうなされた。
「やはり、これはあの骨をすりつぶして、残土と一緒に捨てたたたりではないか、ここまではやばいことになるかも」
その後、現場では、お骨の供養を行った。するとそれ以来たたりはなくなったらしい。
(山口敏太郎)