原巨人がFAによる大型補強に成功したものの、好捕手・炭谷銀仁朗を奪われた側の埼玉西武が人的補償で、ベテラン左腕の内海哲也を引き抜いた。チームの精神的支柱でもあった内海の一本釣りにファンは騒然とさせられた。また、年明けの1月8日、丸佳浩外野手の人的補償で長野久義が広島に移籍することが両球団から発表された。
両選手とも「巨人にしか行かない」とドラフトでゴネた経緯がある。その是非はともかく、チーム愛のもっとも強い投打のベテランを喪失してしまった。
「2年連続MVPの丸を獲ったのだから、巨人もそれ相応の出血は覚悟していました。でも、出してはいけない選手がいるんですよね。チームの雰囲気も悪くなっています」(スポーツ紙記者)
選手会がその人的補償に疑問を呈しているというのだ。
プロ野球選手たちの解釈では、FAは選手固有の権利。ドラフト会議で希望する球団があったとしても叶わないことのほうが多い。プロである以上、自身をより高く評価してくれる球団に行くのは当たり前で、また、出場機会の多くなる球団を選ぶのも当然の権利だという。だが、厄介なのはそれにともなう「人的補償」だ。
「選手が正当な権利を行使する上で、第三者を巻き込む現行のルールはおかしい、と。選手会はこの点での改善を要求していくと聞いています」(在京球団スタッフ)
内海に限らず、人的補償で移籍を余儀なくされた選手にすれば、「まさか、自分が!?」の心境だろう。請われて呼ばれたのだから、最後は割り切って移籍を受け入れる。野球協約によれば、選手にトレードなどの移籍を拒む権利はない。イヤなら、引退するしかないのだ。
「人的補償で移籍した選手が新天地で活躍するケースは少なくありません。人的補償での移籍を前向きに捉える声もありますが、今後、FA権を取得した選手が代わりに移籍する選手のことを考え、権利行使しにくくなるとしています」(前出・同)
FAは93年オフに導入された。取得年数などの改定もされたが、これまで「米球界と異なる点」については議論されていなかった。
簡単に説明すると、メジャーリーグには2種類のFAがある。一つは所属チームとの契約期間が終了し、どの球団とも自由に交渉ができるもの。あるいは、どの球団にも所属していない選手のことを指す。もう一つは所属チームが他球団よりも同等以上の引き止めを行っているが、残留が難しいとなった場合、移籍先のチームは旧所属チームに次年度のドラフト会議の上位指名権か、移籍金を渡さなければならない。プロテクト名簿を作成し、それ以外の選手を一本釣りする人的補償のやり方を行っているのは、日本のプロ野球だけだ。
おそらく、選手会はドラフト指名権か、移籍金のみとするメジャーリーグ式への変更を求めるものと思われる。
プロ野球解説者が球団経営者側の立場をこう代弁する。
「主力選手を喪失する側の戦力ダウンは必至です。移籍金、ドラフト指名権をもらうよりも人的補償で代わりの選手をもらったほうが傷口も小さくて済みます。日本ハムは20代半ばが選手のピークとなるチーム編成をしていますが、他球団はそうではありません。選手会が人的補償の改定案を求めたとしても、スンナリとは決まらないでしょう。球団はせっかく育てた選手に対し、奪われ損だと思うのでは」
選手と球団では制度に対する考え方も違う。
現在、12球団の選手会会長は内海を移籍させた炭谷である。難病を抱える子どもたちへの支援活動にも積極的で、人望も厚い。17年12月に選手会長に選ばれたが、初めての大仕事が自身も関わったFAのルール改定となるとすれば、皮肉なものである。(スポーツライター・飯山満)