「谷根千」とは、東京都台東区・文京区にまたがる地域で、谷中・根津・千駄木を中心とするエリア。周辺には、上野公園、東京大学、特別名勝六義園などがある。
谷中霊園の最寄り駅であるJR日暮里駅で電車を降りると、目の前に御殿坂がある。坂名の由来は定かではないが、江戸時代には、天王寺(現・谷中墓地)の下を通り、日暮里駅の線路を挟んだ反対側となる場所まで続いていたという。
その御殿坂の上に、経王寺がある。日蓮作と伝わる大黒天がまつられている。また、経王寺の山門には、銃弾の跡がのこっている。これは、慶応4年(1868年)に薩摩藩・長州藩を中心とする新政府軍と江戸幕府勢力である彰義隊とが戦った上野戦争のさい、敗走する彰義隊士をかくまったため、新政府軍の攻撃を受けたもの。
経王寺脇の道を歩くと、諏方(すわ)神社がある。諏方神社縁起では、元久2年(1205年)の造営と伝わる。江戸時代には3代将軍徳川家光から社領を安堵され、日暮里・谷中の総鎮守として信仰を集めた。
また諏方神社は、「諏訪台」と呼ばれる台地にある。縄文時代の遺跡も発掘されており、江戸時代には安藤広重の浮世絵「名所江戸百景」のなかにも描かれた。
訪れた6月4日、諏方神社境内では、作家自らがハンドメイド作品を持ち寄る「青空個展/てづくり市」が開催されていた。当日、東京は最高気温25度以上の夏日となったが、巨樹に囲まれた境内では、木漏れ日のなか、73の作家たちがブースを並べ、にぎわいを見せていた。
てづくり市は開催場所によっては食品の出展も可能で、諏方神社のてづくり市でも「飲食コーナー・休憩スペース」が設けられていた。
「くるみのタルト」や「自家製ジャムとクリームチーズのマフィン」らを出展した女性は、付近に住んでいるが諏方神社に来たのは、今回のてづくり市が初めてという。「朝に来て、出展準備の前にお参りを済ませましたが、諏方神社は高台にあって、風が涼しくて、気持ちいい」と印象を語った。
青空個展実行委員会の高村有美(たかむら・ともみ)さんは、てづくり市の運営のため多くの寺社を訪れているが、諏方神社境内は「空気が違う」「マイナスイオンが出ている」という。木々の下、土の上、木陰がある環境に加え、「神社には色んな人が来ます。神様がまつられています。やはり、パワースポットです」と語った。
神社には特別な力があるようだ。(竹内みちまろ)