まずストーリーについてだが、原作でいうところの第一部序盤の山場、久保嘉晴による「奇跡の11人抜き」の後、久保が白血病で亡くなり、主人公のトシこと田仲俊彦が、10番を受け継ぐまでの話となっている。映画ではトシを中居正広が、久保は木村拓哉が演じており、評価はともかく、11人抜きのシーンも再現されている。
原作は「少年マガジン」誌連載だった影響か、当時のマガジンの特徴とも言えた、ヤンキー要素が若干はあるのだが、映画はそれとは違うなにかを感じる。登場人物がほぼ高校生だけのはずなのに、どことなくバブルの匂いがただようのだ。これは当時の人が特にJリーグのサッカー選手に感じていたイメージかもしれない。
例を出すとすれば、当時ヴェルディ川崎に所属していた武田修宏のような選手の存在だ。武田は雑誌の特集にスーツ姿で登場し、サッカーの他に、ファッションや、遊びについて語るインタビューが当時かなりあった印象がある。現在横浜FC所属の三浦知良選手や、サッカー解説者の北澤豪なども華やかではあったが、その中でも特に武田は、試合でのプレイ以外の面で、サッカー選手の華やかさを象徴していた。それこそ、今の方がサッカーの話をしているような気がするほどに。
この映画では、その華やかなイメージを高校生である、SMAPの6人が演じる主要キャラクターたちに与えている。例を挙げれば高校生にもかかわらず、バーで酒を飲むシーンや、オシャレなビリアード場で、ゲームをする姿などだ。原作でも多少は飲酒のシーンはあるにはあるのだが、普通の居酒屋で場末感があって、こんなにオシャレではなかった。こういったところで、「夜遊びがオシャレ」という当時のサッカー選手にイメージを感じることができる。この数年後には、テレビのインタビューなどで、多くを語らない中田英寿氏など選手の登場で、サッカー選手にストイックなイメージがついたが、創立当初とにかくアイドル扱いで、全体的に遊び人な印象が強かったのではないだろうか。
さらに、本編では、当時は大ブームだった「ジュリアナ東京」に行くシーンや、コンドーム専門店「コンドマニア」と思われる店舗に高校生だけで行くシーンなどもある。今考えると、よく設定が高校生で、しかもアイドル映画だった本作に、飲酒シーンや夜遊びのシーンにOKが出たなと思う。今だったら確実にネットは炎上するかと。ちなみに、この数年後に放映された『スワロウテイル』などでは、子供が偽札を使うシーンが問題となって、映倫がR指定をかけている。映倫の判断基準がいまいちわからない。
はっきり言ってサッカーをまじめにやっている人が見れば、「サッカーなめてるのか?」と怒り出しそうなシーンがこの映画には多い。しかし、当時の状況を考えると、これは仕方ないかと思う。Jリーグ元年までは、多くの人にとって未知のスポーツと言えたのだから。例えば、稲垣吾郎演じる、ライバル校のエース・馬堀圭吾の凄さを表現するために野球ボールでリフティングをするシーンなどは、当時サッカーよく知らない人に技術の高さを感じてもらうために、必死で考えたのではないのだろうか。今なら「それ関係ないだろ」とツッコミが入りそうだが、当時は説明セリフを作るにも受けて側に知識が少なかった人が多かったのだ。
また、本編中にあるヴェルディ川崎と清水エスパルスの試合のシーンは、別撮りではあるが、Jリーグ創設期の熱気あふれるスタジアムの雰囲気よく感じることができる。現在でも浦和などに行けば、同様の熱狂を見るだろうが、この当時はJリーグが地域密着体制に変わる前で、プロサッカークラブがない地方でも、全国規模でこの熱狂があったのだ。さらに、このシーンでは、当時ヴェルディ川崎の10番だったラモス瑠偉が、用具入れに忍び込んで試合を観戦していた、トシらを叱るシーンなどもある。演技はともかく、この時のラモスの背中には注目だ。当時の報道ではあまり見ることができなかったサッカーにかけるストイックな姿を、この背中が無言で表現していると言ってもいい。しかしこれらのシーン影響か、肝心の本編は、インターハイ準決勝までをバッサリとカットしてしまっているので、原作の展開を見たかった人には不満かもしれないが。
作品全体として本作は、Jリーグが始まったことによる、サッカーに対しての熱狂ぶりというのもかなり感じる作品だ。また、まだ駆け出しの頃のSMAPを知るアイドルPV作品としても、効果的に当時の楽曲が挿入歌として入っており、最良の出来ではないかと思う。ひとりだけライバル校の選手という都合上、稲垣の出番だけ極端に少ない点は気になるが。他にも、注意して見ていると、後にV6としてデビューする井ノ原快彦や長野博、KinKi Kidsのふたりなども確認できるので、その辺を楽しんでもいいかもしれない。
(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)