深い緑の森にいくつもの竹が高くそびえ立つ幻想的な一枚であるが、この写真にはなんと「妖怪」の姿が写し出されているという。
写真の左下部分にご注目いただきたい。なんと赤い体をした天狗のような物体がギロリとこちらを向いているように見える。
高い鼻、不機嫌そうな目とへの字口は我々がよくイメージする天狗にそっくりである。果たしてこいつの正体は伝説の妖怪、天狗なのだろうか。 改めて検証してみよう。
この写真は前述の通り加藤氏がサイクリング中に撮影したものである。場所は東京都目黒区の西郷山公園である。「西郷」の名が示す通り、この公園は西郷隆盛の実弟である西郷従道がかつて別邸として住んでいた土地である。
この地には残念ながら天狗など妖怪の伝承は残ってはいないが、この地には昭和の初期に赤ん坊にまつわる痛ましい事件が起こっている。それが「目黒もらい子殺し」である。
「目黒もらい子殺し」は昭和8年に西郷山公園で発生した乳児の死体遺棄事件で養育費目的に引き取った子供を事故に見せかけて次々に殺害し、20体あまりの遺体を西郷山公園に埋めていた、という事件である。
そのためか、この地では夜になると「赤ん坊の声が聞こえる」という怪談話が今も残っている(余談ではあるが稲川淳二氏はこの西郷山近辺の生まれであり「夜になると近づいてはいけない」ときつく親に言われていたという)。
今回撮影された天狗は上記の事件とは関係がないと思われるが、西郷兄弟が生まれ育った鹿児島県には「テンゴヌカミ」という天狗の伝承などが残っている。
天狗は古来より日本では神として崇められており、天狗を祀る神社なども数多い。鹿児島にももちろん天狗の信仰は数多く残っており、地酒なども発売されている。
もしかすると、熱血漢だった西郷従道は死後、大きな天狗となり二度とあの悲劇を繰り返さないようこの公園を見守っているのかもしれない。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)