「各テレビ局がイベント終了後に個別インタビューを申し込むなど、過去に何度か行われた野球教室とは比較にならないほど、多忙なスケジュールとなりました。どのインタビュアも質問していたのは、古巣巨人の低迷について、そして、『自身の監督就任は?』というものでした」(取材記者)
松井氏は元同僚・高橋由伸監督に配慮し、「応援している」以上のことは発しなかった。各局とも、高橋監督がたとえ最下位に沈んだとしても、「解任はない」ことは分かっている。あえて松井氏に監督就任の意思があるのかどうかを質問したのは、“13番目の椅子”が空いているからだ。
NPBには12球団しかない。13番目とは、侍ジャパンのことだ。
侍ジャパンは今年11月の『アジア プロ野球チャンピオンシップ2017』に出場する。新監督のお披露目の場ともなるが、この有力候補として松井氏が再浮上してきたのだ。
「侍ジャパンの事業会社である『NPBエンタープライズ』の新社長に読売新聞東京本社スポーツ事業部長だった山田隆氏が就任しています。小久保裕紀前監督の後任は、読売、つまり、巨人カラーを持つOBが選ばれるとの見方が強まってきました」(前出・同)
当初、新監督は早急に決定すると思われていた。NPBの熊崎勝彦コミッショナーは今年1月の仕事始めの段階で「WBC優勝」の目標と同時に、「世界一奪回後、次のステージに進む」と明言していたからだが、強化委員会の意見は二転三転している。
「(監督の)経験値が高い人を推す声もあれば、監督未経験者を含め、若手を推す一派もありました」(関係者)
同委員会の出席者のなかには、「もう、井原さんと山中さんに決めてもらうしかない」と、吐き捨てる者もいた。監督候補の絞り込みにも苦しんでいたわけだ。井原(敦)氏とはNPB事務局長、山中(正竹)氏とはアマチュア球界を取り仕切る全日本野球協会の副会長を務めている。しかし、一見、投げやりに聞こえるが、「2人に決めてもらう」なる言葉には、深い意味が隠されていた。
「次の代表監督は東京五輪で指揮を執ることになるでしょう。東京五輪を戦う代表チームは、プロアマの混合チームになる可能性が高いんです。アマ球界側は野球・ソフトボールを追加種目に当選させるためのロビー活動にも協力しており、その見返りとして、『アマチュア選手の選抜枠を設けてくれ』と提案してきました。プロ側もそれを受け入れる方向です」(球界関係者)
次期監督はアマチュア球界にも“睨みが利く”大物でなければならないのだ。また、次期侍ジャパンにはチーム編成を行う強化本部長職が設けられる。選手招集を監督に託すのではなく、メジャーリーグのゼネラルマネージャーのような立場になるという。そこにも“巨人カラー”が反映されそうだが、監督未経験者にとって、後ろ楯となる人物がいるのは頼もしい限りだ。松井氏を口説く材料となるだろう。
「若い世代は日本のプロ野球中継ではなく、メジャーリーグのテレビ中継を観て育ちました。当然、松井氏も憧れのメジャーリーガーの一人です」(前出・同)
NPB関係者は「7月末まで」に次期侍ジャパン監督を発表したいとしている。「井原、山中両氏に一任」の言葉も出た強化委員会が開かれたのは6月7日。当然、松井氏の帰国日程も掴んでいた。説得に失敗したとしても、「7月末まで」だから、次の候補者に当たる時間は十分にある。松井氏が野球教室後に対面したのはインタビュアだけではなかったようだ。
(スポーツライター・飯山満)