勝負の世界は、勝者と敗者は天と地ほどの差がある。勝ってナンボの世界だけに、「(有馬記念)3着でおめでとう、といわれても素直に喜べないよ」と、エアシェイディの伊藤正調教師は真顔で反論した。
モノもいいようで角が立つということだが、裏を返せば愛馬に対する期待の大きさの現れでもある。実際、父サンデーサイレンスに母はオークス2着のエアデジャヴーという金箔つきの良血。誕生した時からGIを勝たなければいけない使命を背負ってきた。
ところが、順風満帆だったのは2連勝でホープフルSを勝つまで。以降は、脚部不安と二人三脚の競走人生を送ってきた。2度の骨折を含め4度の休養(合計2年4カ月)を余儀なくされたのだ。
「(2、3歳の)成長期は馬房で寝ていたよ」と苦笑いを浮かべる伊藤正師。しかし、待てば海路の日和あり。7歳を迎えた昨年のAJCCで、待望の初重賞制覇を遂げた。重賞挑戦を続けて、実に15回目のことだった。「あきらめずにやってきて良かったと思ったね」。重いそのひと言にトレーナーの実感がこもっていた。
しかし、AJCCはGI制覇に向けた通過点、あくまで序章にすぎない。昨年は4度、GIに挑戦。有馬記念3着が最高だったが、「コンスタントに力を発揮できるようになった」と評価している。有馬記念が呼び水になり、AJCC連覇の可能性は高い。
「イモ虫みたいに良化度は遅かったが、昨年より確実にステップアップしている。今年は“チョウ”になる手応えを感じている」
勝利を確信した様子の伊藤正師は、視線の先にしっかりとGIを見据えていた。