1979年9月、NYのジーグフェルド劇場の前で、私は1人の作家を待っていた。手には、法外な値段でダフ屋から仕入れた映画「地獄の黙示録」の入場券5枚。作家は北米大陸を釣りをしながら南下中。太平洋を越えて到着した当方と、NYで交差するという約束事ができている。
題名が災厄を呼んだのか、ある日、コッポラ監督から突然の電話。「重大な変更が生じました。契約上、配給を降りることは可能です。しかし私を信じていただきたい」。主役スティーブ・マックィーンの、まさかの降板事件である。配給の日本ヘラルド映画は契約続行を決めた。そんなふうに作るほうも買うほうも、もはや運命共同体と化した超大作がやっと完成し、LAとNYだけで、プレミアロードショーが始まっている。
作家は来た。映画を観た。言葉少なに街に消えた。「かなりの人生を暗闇の中で暮らして」きたと自他ともに許す映画ファン、そしてベトナム戦争のルポから九死に一生を得て帰還したその人は、若き日にトリスウイスキーの宣伝コピーを書いていたことでも知られる開高健。
<「人間」らしくやりたいナ トリスを飲んで「人間」らしくやりたいナ 「人間」なんだからナ>
そのトリハイ(トリスのハイボール)を、いまだ誇り高く作っている大衆バーの代表格「ブリック」も、銀座・八重洲・中野の3軒になってしまった。中野店が好きだ。
予算1500円
東京都中野区中野5-61-3