ジョン・ヘンリー伝説をかいつまんで紹介する。
アメリカで鉄道建設が盛んだった19世紀後半、とある工事現場で白人の監督が「蒸気建設機械を導入するから不要な労働者を解雇する」と告げた。突然の解雇通知に対し、力自慢の黒人ジョン・ヘンリーが「俺が機械と勝負して、勝ったら解雇を撤回してくれ」と申し入れた。監督は合意し、ジョン・ヘンリーと蒸気建設機械の勝負が始まる。犬釘(レールを枕木に留める巨大な釘)打ち込み勝負は互角のまま進み、やがて岩山へぶち当たってしまう。今度は蒸気ドリル(蒸気機関で穿孔機を駆動するボーリングマシン)との対決が始まり、超人的な働きでジョン・ヘンリーは勝利する。しかし、トンネルを掘り抜いた直後、力尽きたジョン・ヘンリーは死んでしまった。
黒人と白人の関係や近代技術、アメリカにおける鉄道建設の意味合いなど民間伝承としては非常に興味深く、アメリカの黒人文化においても非常に重要な存在とされている。また、ジョン・ヘンリーを歌ったフォークソングも多く、ディズニーが短編アニメ化するほどポピュラーな存在で、日本にも伝承を翻案したと思われる漫画作品が存在するほどだ(超ネタバレとなるのでタイトルには言及しない)。
ただ、建設機械に勝利して労働者の解雇を阻止したものの、直後に力尽きて息絶えるというラストは異動が多く、昏倒後に帰宅して家族に看取られながら息絶えたとか、あるいは回復して家族と平和に暮らしたという異聞もある。また、家族の有無についても細かな異動が存在しており、豊かなバリエーションは民間伝承として広く伝わり、愛されたことを示していると言えよう。
また、岩山にトンネルを掘って建設機械を打ち負かすという荒唐無稽さは、冒頭に触れたポール・バニヤン伝承にも通じる痛快さがあり、民間伝承のダイナミズムを示しているのだが、そのジョン・ヘンリーが実在したとの説を唱える専門家が存在するのだ。
それも、モデルになった人物が存在するとか、そういうレベルのものではなく、ほぼ伝説そのままの事実が存在したと主張しているのだ。
(続)