ウオッカだけではない。希代の名牝に携わるすべての人々が誇らしげだ。それだけ自信の持てる仕上がりが今、結実しようとしている。
「この馬のいいところは5つある。心配機能、カイバ食い、育ち、血統、そして筋肉。それらがうまく重なって強いウオッカが完成されたんです」
そう言った村山助手の目に力が宿った。華麗に舞った春。牝馬として64年ぶりにダービーを制した。だが、やり残した仕事もある。凱旋門賞を自重した悔しさとともにその思いをぶつけるべく、夏に鍛錬を重ねてきた。この秋、桜花賞で敗れたダイワスカーレットへのリベンジを果たす。
今年の3歳世代は明らかな「女高男低」。ウオッカがダービーを制したといっても、桜花賞でスカーレットの後塵を拝したままでは、世代の頂点とはいえない。
しかし、陣営には、焦りも不安もない。まさに泰然自若。「ダイワスカーレット、ベッラレイアうんぬんではなく、自分の競馬をすればいい。周りにとらわれず自信を持って四位くんも乗ってくれるでしょう」と言い切った。
それだけの力、仕上がりが裏付けとしてあるからだ。道悪で折り合いを欠き、敗れた宝塚記念、凱旋門賞は蹄球炎のため、回避せざるを得なかった。だが、その後は元気いっぱいにトレーニングを積んだ。プールに坂路。物足りなかったトモの筋肉がグンと張り詰め、牡馬でもなかなか出せない威圧感すら漂わせるようになった。
「本当に順調だし、もうビッシリやる必要はないぐらい。どっしりして最高の雰囲気ですね。京都の内回りもまったく心配していない」
村山助手は最後に、「まるで女王様ですね」とつぶやいた。しかし今、世間をにぎわす“エリカ様”とはまるで違う。ファンが最も喜ぶパフォーマンスは何か、それを一番よく知っているのはウオッカだ。
【最終追いVTR】オーバーワークにならないように併せ馬ではなく、坂路で単走で追い切られた。800m53秒6を計時。鞍上の四位がラストだけ感触を確かめると1F12秒2と鋭く弾けた。馬体の張り、気合乗りともに申し分なく、パーフェクトな仕上がりだ。