ある夜、彼と電話していた時のことです。時間も遅くなってきていたため、私は「そろそろ歯磨きして寝るね」と言って、電話を切ろうとしました。すると彼は、「歯磨きしているところを見たい」と言うのです。「電話だと見れないじゃん」と伝えると、彼はわざわざお互いの顔を見れるテレビ電話機能『FaceTime』に切り替えて、私が歯を磨く様子を、画面越しにジッと見ていました。
それからというもの、度々夜の電話の際は、そのまま歯磨き姿を画面で見せるというのが、お決まりの流れになっていました。よく歯を磨く女性の姿にキュンとくる男性が多いと聞いたことがあるので、彼もその1人なのかなと思っていました。
数か月後、私は前々から少し痛むと思っていた親知らずを抜くことにしました。それを彼に話すと「せっかくだから抜いた歯は持ち帰るといいよ」と言われました。私は別に歯なんていらなかったのですが「記念だから」と強く説得されたのを覚えています。そして歯医者で、持ち帰りの希望を伝えると、抜いた歯は小さな箱に入れてもらえました。
その日の夜、彼は早速私の家にやってきて「抜いた歯を見せてほしい」と言いました。そして箱を開けて見せると、彼は指先でつまみ、それをじっくりと眺めながら「お願い! ちょっとだけ!」と言いながら、私の歯を口の中に入れて、コロコロと舌で転がしながら舐め始めたのです。さらに「あぁ佐奈の歯の形めっちゃ好みだわー」と、興奮して話していましたね。「○○の歯は〜」という言葉に、私は「他の人の歯も舐めたことがあるの?」と聞くと、これまでの彼女にも歯を貰っていたとのこと。
彼は私の歯磨き姿を可愛いと思っているのではなく、ただ歯が好きなだけの人だったみたいです。それ以降、相変わらず歯磨き姿を要求してくる彼に、なんだか気持ち悪くなってしまい、連絡を放置。やがて自然消滅しました。親知らずは彼にあげたので、今でも口の中に入れて舐め続けているかもしれません。
(取材/構成・篠田エレナ)
写真・ CaetanoCandal