農薬などの有効な防除法をもたなかった時代、全国の農村で盛んだった虫送り。6〜7月に行われることが多く、山田町が位置する大和高原では6月16日に定めているところがほとんど。とはいえ、消えつつある行事の一つであるのは確か。そんな中、山田町の上、中、下3地区で営まれる虫送りは市の無形文化財に指定され、継承への努力がなされている。
害虫を遠くへ送り出すのはもちろんだが、日頃殺生している虫を供養することも儀式の重要な目的。別名「虫の祈祷」と呼ばれるのはそれゆえ。まずは住職により祈祷会が行われ、松明はその灯明を移した薪の火が点される。こうして各々持ち寄った手作りの松明は炎と煙をたなびかせ、祈祷札と太鼓に率いられ、今年の出発地点の春日神社境内を後にした。
行列には町内の小学生も多数参加。自分の身長よりも大きい松明を右に左に持ち替えながら、町内をぐるりと懸命に練り歩く。終了後にふるまわれる「おいしいおにぎりが楽しみ!」と笑っていたが、もちろんそれだけで何年も参加しているはずはない。頼もしい姿に、彼らがこの伝統行事を次代へと伝えていってくれるだろう希望を抱いた。
近年は虫送りを体験してもらおうと、一般の参加者を受け入れている。当日も天理市の募集にたくさんの人がつめかけた。いつにない大行列は最終地点の川へたどり着き、そこで集められた松明を燃やして無事終了だ。これだけの大人数に送られたのだから、今年は豊作間違いなしだろう。
写真:「田のあぜ道を進む虫送りの行列」
神社ライター 宮家美樹