「高卒捕手を育てるのが、もっとも難しい」
過去、強肩を買われて上位指名された高校生捕手は数えきれないほどいた。しかし、正捕手の座を勝ち取った高卒捕手はあまり多くない。その理由は、先輩投手が「高卒捕手の勉強に付き合っていられない」と怒り、ベンチ(バッテリー担当コーチ)に配球のサインを出させるからだ。高卒捕手が自分で配球を考え、サインを出すのを許されるのは3、4年後だという。
捕手が一人前に育つには『失敗』も必要だが、先輩投手の側からすれば、生活が掛かっている。数少ない一軍昇格のチャンスを高卒捕手の“稚拙な配球”で潰される、あるいは、育成のために踏み台にされる屈辱もあるのだろう。担当コーチが仲介しても解消されないそうだ。それに対し、大卒、社会人を経由してプロ入りした捕手には「寛大になれる」とも言う。先輩投手の気持ちも分からなくはない。高卒捕手が育ちにくいのは、こうした大人社会の事情がなくならないからである。
しかし、谷繁元信・兼任監督(43)は高卒ながら、プロ1年目から一軍にフル帯同し、80試合に出場した。配球ミスを理由に出場機会を激減させられた若手時代もあり、またそこから這い上がってきて、今日に至っている。中日は正捕手問題をまだ解消できていない。だが、谷繁兼任監督なら、高卒捕手を育てられるはずである。
10月10日、中日はスカウト会議を開き、谷繁兼任監督もそれに出席している。「いろいろ報告を受けただけ」と答えるに止まったが、一部報道によれば、1位候補は7、8人に絞られたという。今季、最後までローテーションを守ったのは「36歳の山井大介だけ」という現状を考えれば、1位候補の7、8人とは、全て大学、社会人投手ではないだろうか。
中日が『ナンバー1投手』と評価しているのは、山崎康晃(亜大)のようだ。中田宗男スカウト部長(現・編成部長)は6月の全日本大学選手権で山崎を直接視察している。
「体が横にも大きくなった。体力作りをしっかりしたんだろうね。リーグ戦では変化球が多かったけど、今日は力で抑えようとしていた。かわすピッチングだけでは、プロでは通用しない。今日のようなストレートを投げられるかどうかが課題だったけど、いい球を披露してくれた。有力な1位指名候補」
スカウトがマスコミ相手にここまで饒舌に語ることは滅多にない。
山崎は右の本格派で、最速は150キロ強。変化球でストライク・カウントを確実に稼げる制球力もある。また、他球団スカウトも一目置いているのが、スローカーブとナックルも操れる点で、「投球技術なら、有原(航平=早大)以上」と評する声も聞かれた。
一方、もう1人のキーマン・落合博満GMが、社会人野球の視察に時間を割いたのは既報通り。高木伴(NTT東日本/右投右打)、尾田佳寛(JX−ENEOS/右投右打)、緒方悠(大阪ガス/右投右打)、飯塚孝史(同/右投左打)などの有名投手は、当然、チェックされているはずだが、ここに来て、急浮上してきたのが、三菱日石パワーシステムズ横浜の右腕・野村亮介(21)だ。
ライバル球団のスカウトがこう続ける。
「スカウトが注目していたのは、同社の左腕・福地投手の方でした。左の即戦力投手は貴重ですが、福地クンは『会社に残る』との情報もあり、それはかなり信憑性の高いところから出たものでした。福地クンの進路変更によって、他球団も慌てています」
福地元春(24)はガッチリとした体型で、「空振りの取れる左腕」と評されている。
野村、福地両投手は甲乙付けがたい。中日が慌てなかったのは、左右に関係なく、指名可能な投手をチェックした落合GMのおかげだろう。
一部では、今季は高校生の指名を見送るとあった。しかし、超高校級捕手・清水優心(九州国際大付高)、栗原陵矢(春江工高)の視察現場では中日スカウトの姿も目撃されている。実際、昨年も下位指名を匂わせながら、鈴木翔太(19=聖隷クリストファー高)を外れ1位指名しているだけに、「高校生見送り」説は“陽動作戦”かもしれない。
捕手の指名候補だが、単に肩の強さだけではなく、スローイング、捕球技術、配球など『捕手としての総合能力』で見た場合、青山学院大の好捕手・加藤匠馬を上げる関係者も多かった。その加藤の知名度がイマイチ高くないのは、打撃面でやや落ちるからだと思われる。
中日には「地元選手を獲る」という方針もある。そのキーワードで考えると、東海地区の静岡県出身の野村、お隣の三重県出身の加藤は外せないようだ。
※中田宗男部長のコメントは共同通信社発信の記事を参考といたしました。